第43話 抱えた貴族たち


 私はアリアとリタを連れて、同盟町であるジュラの町長の屋敷の前に着く。

 ちなみに元姉妹町だったジュペタの町は、我々が占領して統治している。

 最初に寝返った俗物貴族――王都で以前に交渉した青年が町長だ。

 あの町自体は正直どうでもいいので、半分押し付けた形である。

 門番が我々の姿を確認して駆け寄ってきた。


「スグル様とそのご一行ですね。少々お待ちください」

「違う、アリアとそのご一行だ。私ではなくアリアが主賓だ」

「細かいなぁ……」


 リタがボソリと呟くがわりと大事だ。誰が一番上かは明確にしなければ何かあった時に困る。

 特にここの町長はアリアではなく、私個人に従っている節があるのだ。

 私ではなくてアリアが王になるのだからそこははっきりさせておく。

 そうしなければ、無駄に私を抱え上げようとする勢力が出かねない。


「申し訳ありません。では中へどうぞ」


 門番に屋敷内の大部屋へと案内される。

 そこでは会食が行われていて、大勢の者が立食形式でパーティーを行っていた。

 ジュラの町長や私が交渉した貴族などもいる。

 

「おお! スグル様たちではありませんか!」


 私に気づいたジュラの町長が叫ぶ。すると部屋にいた者たちが一斉にこちらを向き敬礼してきた。

 彼らはおそらく全員が私たちに寝返った貴族だろう。

 一人一人の顔を覚えてはいないが。


「いやぁ! 本日の主賓が到着されましたな! 何やら我々に大事な話があるとのことなので、こうして全員を集めさせていただきました!」


 ジュラの町長が揉み手をしながらこちらにやってきた。

 集めろと言っただけで宴会しろとは言っていないが、貴族の集会の形式はわからんからいいか。

 今日ここにやってきたのは今後の計画を話すためだ。

 それが出来れば特に問題はない。見たところ、机の上にワインの瓶などは置いてあるが、開いてないようだ。

 アリアに拡声器を渡すと、彼女は頷いて受け取った。


「ごきげんよう。私たちのために集まってくださりありがとうございます。本日は今後の展開を話すために集めさせていただきました。来週、王都を攻めます」


 アリアの一言に会場はざわめき立つ。

 だが予想はしていたようで、すぐに歓声へと変わっていく。


「とうとう王都を! あの悪魔に魂を売った王を倒すのか!」

「アリア様が名実ともに王に!」

「これであの重税や戦から解放される……!」


 裏切っただけあって王に対して不満を持つ者が多い。

 そこかしこから喜びの声が聞こえてくる。

 この国は全方面に喧嘩を売っていたので、戦争を継続するために税が重かったのだ。

 今後は戦いはやめて周辺の国と停戦協定を結ぶ。

 結ばなかったらヴィントの砲撃でもおみまいしてやる。


「ですので皆様の力を貸して欲しい。王都に巣くう悪を滅ぼして、私たちが正義として国を救うのです」


 アリアが芝居がかった台詞を叫ぶ。

 俗物は開くとか正義とか好きだからな。本来の彼女ならばそういった類の単語は言わない。

 何故なら私もアリアも正義とか悪とかの言葉は嫌いだからだ。

 だが民衆とかには使っていく必要がある、その方が盛り上がる。


「救国の乙女様! ですが王都には悪魔がいます! あれはどうするおつもりですか?」

「問題ありません。すでに首魁は捕らえました」


 アリアの言葉と共に私は亜空間から檻を取り出した。

 会場に突如現れた檻。その中に入って気絶している白い悪魔を見て、会場から大音量の歓声が響き渡った。

 

「もはや敵は烏合の衆です。私たちの勝ちは揺るがない」

「流石はスグル様です! もはや王など恐れるに値しまい! 皆の者、我らも剣を取って王都へ行くぞ!」


 ジュラの町長がアリアの言葉に続けて、周りの貴族たちが手を上げて叫んだ。

 それと共に全員に酒が配られて乾杯が行われる。これで話は終了ということだ。

 だが今の言葉、やはりこいつはアリアではなく私に従っている。

 

「おい。王となるのはアリアだ、それを忘れるな」

「もちろんでございます、スグル様」


 ジュラの町長は恭しくやはり私に向けて頭を下げる。

 こいつは強い者に従うが、アリアを強者と認めてはいない。

 今後の火だねにならなければいいが。なりそうならサクッと処分するが。


「そういえば小耳に挟んだのですが……王の右腕たる財務卿が大勢の魔法使いを連れて逃げたとのうわさが」

「ふむ、見限ったか。魔法使いが大勢消えたなら、さらに王都は戦力がダウンだな」


 ジュラの町長の報告で、魔法使いを大勢連れて逃げたというのが少し気になる。

 悪魔を蘇らせるトリガーとなるのは魔法だ。何かたくらんでいる可能性がある。

 だが魔法使いは貴重。大勢いれば自分の力となるので、連れて行っただけだろうか。

 念のために財務卿のことを諜報部隊に調べさせておくか。

 

「ケチャップズ、財務卿のことを調査しろ。生死は問わん」


 独り言のように呟くと後ろから「承知」と返事が来た。

 この会場に潜んでいたケチャップズのリーダーに聞こえたようだ。

 後は奴らに任せておけばいい。奴らは戦闘能力は微妙だがこういった裏方的な能力は高い。


「いやぁ、あの王を処刑するのが楽しみですな! ではでは!」


 ジュラの町長は揉み手をしながら離れていき、他の貴族たちの会話に入っていった。


「どうもどうも! 私はスグル様に一番についた味方で、魔法使いも譲り渡したジュラの町長です!」 


 必要以上に大きな声で話すジュラの町長。わざと周りに聞かせることでこの会食を利用して顔を広げるようだ。

 そういった小手先のことには頭が働くのか。

 確かに一番最初に味方にはついたし、魔法使いであるルルも元はジュラ所属だ。

 

「ええ……脅されて味方になっただけじゃん……ルルだって勝手にこちらに来ただけだし」


 リタはあの男を見て微妙な顔をしている。都合のいい言葉に納得していないようだ。


「多少の脚色はあるが事実だからな」

「多少じゃないと思う……」

「政治の世界なら必要なこと。だから私も聖女とか救国の乙女とか名乗らされてる」


 アリアの言うことは正しい。

 政治は時として嘘を言ったり情報を隠すことも必要だ。

 今回の場合は脚色だけで真実を話しているので全く問題はない。

 

「アリアの名称も嘘ではない。悪魔に魂を売った王を打ち倒す美少女だからな。結果的にとはいえ」


 あそこまで無能な王とは思わなかったが、おかげで思い通りにことが進んだ。

 その意味では役に立ったと言えよう。後は民衆の前で悪として処刑されてくれれば完璧だ。

  

「あの王も多少は役に立ったので、死後に墓くらいは立ててやるか……どうしたアリア? 顔が赤いぞ」

「……なんでもない」


 考え事をしているとアリアが頬を少し赤くしてこちらを見ていた。

 だが話しかけるとそっぽを向いてしまう。いったいなんなのか。


「それよりも! 王都にいる悪魔は具体的にはどう倒すの?」

 

 リタが割って入るように大きな声で叫ぶ。

 近くにいた貴族たちに聞こえたようで、彼らもこちらに視線を向けてきた。

 どうやらこいつらも気にはなっているようだ。


「いくらでも方法はあるがヴィントで遠距離砲撃を撃つ予定だ」

「あの巨大ロボットだっけ……大丈夫? 王都ごと消し炭にならない?」

「悪魔は基本的に空を飛んでいるから大丈夫だ」


 悪魔たちは人型だが移動手段は翼による飛行がメインだ。

 歩く走るもできるのだがあくまで補助。ようは鳥に近い。


「でもあまり空高く飛ばなかったら?」

「その時は私なりアダムなりで処理する。変異体もいない悪魔なぞ問題はない」


 唯一の変異体だった白い悪魔はすでに捕らえている。

 炎しか吐けないモノなど恐れるに値しない。

 

「何ならリタも一体くらい相手してみるがいい。案外勝てるかもしれんぞ」

「うーん……銃が効くならいけるかなぁ……」

「結局のところ、悪魔なぞただの雑魚だ。片手間に倒してやろう」


 貴族たちが引き続きこちらに注目しているので、彼らに聞こえるように呟く。

 私の言葉を聞いた者たちが笑みを浮かべた。

 これならば彼らの士気も上がるだろう。後は王都に侵攻してアリアを王にするだけだ。

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