第32話 国からの襲撃(前編)
「マスター、敵が攻めてきた」
アダムが私の家の扉を粉砕して入ってきて、思わず空中コンソールを叩く手をとめる。
塞ぐもののなくなった入り口から隙間風が吹いてきた。
どうせリタ辺りがアダムに対して、急いで私に知らせろと命令したのだろう。
急いでという指示に忠実に従った結果だ、扉を開くより破壊したほうがわずかに早いからな。
彼女をポンコツアンドロイドと言う者もいる。だがこれでもかなりマシになっている。
以前ならロケットブースターを起動して、突撃して家自体が半壊の被害にあっていた。
アダムも成長しているのだ。いつか本当に人の心を持つかもしれない。
「やっと来たか。待ちわびたぞまったく……実験が溜まっていくばかりだ」
諜報部隊ケチャップズから王都が襲撃を計画していると聞いていた。
だがあれから一週間たっても来なかったからな。
人体実験用のサンプルが不足している。
「アダムが全部倒す?」
「いや今回はお前は待機だ。そろそろうちのお姫様にも戦ってもらわねば」
私やアダムがいつも殲滅しているのはまずい。
我々がいなくなったら戦えないのと同義だ。それは困るのでアリアに総大将をさせることにする。
彼女にはせんの……催眠教育を施しているので、兵を指揮する知識も多少は持っているのだ。
戦力も愚鈍の木偶の棒ズに、ジュペタの役に立たない兵士たちも加わった。
数だけは賑やかだから何とかなるだろ。
そんなことを考えていると、ドアが消え去った入り口からアリアが入ってきた。
「スグル、敵が攻めて来てる」
「慌てる必要はない。君が指揮をして戦うがいい」
「……わかった」
アリアは真剣な顔で頷いた。私はそんな彼女の身体を観察する。
ここで活躍してくれれば救国の乙女として宣伝できる。
ブロマイドなどを配って知名度を引き上げるのもいいな。
どうせなら水着なども着せるか。凹凸が少ないので物足りない気もするが。
「……スグル、失礼なこと考えてる」
アリアが私に対して胸を腕を隠すようにする。
「事実を考えたまでだ」
細身が悪いとは言わんが俗物は巨乳を好む。アリアではひっくり返っても無理だ。
私も神ではないので手段を選んだら限界がある。
「やれやれ。私もまだまだだな、兵士を集めて王都の兵を捕らえるぞ」
「……わかってる」
「アダムはアリアの護衛をしろ」
「イエス」
私を含みのある目で見ながら家から出ていくアリア、そしてついていくアダム。
それから三十分ほど研究をしていると、リタが家の中に入ってきた。
「なんで扉が壊れてるの……」
「お前のせいだよ。給料から引いておくからな」
「知らないよ!? 兵士の準備ができたから呼びに来たんだけど」
リタはいつもよりも胸当てなどが金属製で、いつもよりも上等な装備をしていた。
一応は町の警備長に任命したので最低限の見た目は整えたらしい。
だが機敏に動き回る戦闘スタイルなので、胸当てや小手などはしているが全身鎧は着ていない。
もしそんな物を装備していたら、持ち味の機敏な動きを阻害するので脱がしていたが。
「そのうち向かうから先に始めておいてくれ。あ、少しは残しておけ」
「そんな酒場の宴会みたいな……一応戦争なんだけど」
「ルルもいるんだろう? まともな戦いになるのか?」
魔法使い一人で兵士五百人以上の計算だ。
どうせ王都の兵隊など来ていても千人とかだろう。下手をすればルルの魔法だけで倒せてしまう。
敵の三割くらい倒せれば普通の戦場なら勝負は決まる。
「ボクたち、まともに戦争するの初めてなんだ。アリアも緊張してるし傍にいてあげてよ」
「断る。優先すべきことがある」
「ええ……震えてる女の子を守ってあげるより大事なことなんてないでしょ」
「アリアがそう簡単にビビるとは思えないが」
というかドローンからの映像で観察しているが無表情で指揮をしている。
いつも通りなので特に問題ないと判断。それと王都の兵士とぶつかる予定の場所が気になるのだ。
漠然としているのでまだ言えないが、もう少し調査したいのだがな。
「いやいや。アリアって無表情だから周りからわからないだけだよ」
「……やれやれ。わかったわかった、少しは助けてやる」
調査を中止して町のすぐ外に向かう。
そこでは気の張った大勢の兵士が今か今かと盛り上がっている。木偶の棒ズもカタカタと音を鳴らして待機していた。
有象無象が多すぎてアリアがどこにいるかがわからない。
彼らの間をかき分けるように探すのは面倒なので、ホバーブーツで数メートルほど宙に浮く。
浮いたまま周りを見回すとアリアはかなり奥にいた。布で築いた簡易な陣の中央に。
高度を保ったまま進み彼女のほぼ頭上までたどり着く。
「……スグル遅い」
「研究していた。だがしかし……なかなか似合ってるじゃないか」
アリアは役に立ちそうにない兵士を傍に二人立てて、ドレスの上に部分的な甲冑を着て椅子に座っている。
胸と腰に肩、それと小手のみに装甲のついた俗にいう姫騎士のような服装。
普段はあまり飾りっけのない衣装なのでかなり新鮮味がある。
救国の乙女を演じるために私が作ったのだが想像以上に似合うな。
「茶化さないで。この衣装、あまり防御力がない」
「当たり前だ。その服はなんちゃって鎧で合理性などない」
胴体とか防御力皆無だからな。見栄えだけ考えて作った物だ。
そもそも総大将が直接戦う機会が望ましくない。ましてや少女ならばそんな状況を作り出した時点で負けだ。
それに念のために護衛にアダムをつける予定なので、万が一の危険すらないだろう。
アダムだけでも敵軍をせん滅できるし。
「偶像として頑張ってくれ。別に名将である必要はない」
「……わかった」
アリアはいつものように無表情だが少し顔が硬い。
柄にもなく緊張はしているようだ。リタが言うように震えてはいないが。
これくらいならば問題ないだろう。場慣れが足りないでいくつか戦場を経験すれば慣れる。
「それと俗物ども、お前たちはなんだ?」
アリアの傍に立っている二人の兵士に視線を向ける。
彼らは一瞬だけ動揺の色を見せた。
「「我々は救国の乙女の護衛です!」」
「護衛を置けって呼んでもないのに援軍に来た貴族たちがうるさくて」
声を揃える二人組の自称護衛たちを改めて観察する。
邪魔だな。
「貴様らなんぞいらん」
「わ、我々は西の有力貴族たるジェフリャ様の近衛騎士で……」
「東西南北関係なく無能はいらん」
こいつらがアリアを守れる? そんなわけがあるか。
護衛とかつけて恩を売ろうとしているのだろうが、それならば最低でもルルより優秀な奴をつれてこい。
あいつ以下が護衛に来たら断固拒否する。何やるか予想がつかない。
武器なども含めて総合的に強さを評価したが、近くにいても役に立たないし足手まといだ。
ようはアダムの護衛対象が増えてしまう。
「わ、我々を無能と申すか!」
「やれやれ。勝ち馬に乗ろうとして無能がすり寄ってくるのは構わなかった。分をわきまえていれば乗らしてやったものを」
「ジェフリャ様をも……! どこぞの馬の骨の分際で!」
二人は私に対して武器を向けてくる。この時点でアリアを守るという目的から外れていて論外だ。
私を利用して恩恵を受けようとするのはいい。だがそれは私にデメリットを与えないことが大前提である。
それがなければ構わないが不利益を渡してくる相手は敵だ。
「アダム、新たに内蔵したタイフーン発生装置を」
「イエスマスター」
アダムはその場でコマのように高速回転を始める。
あまりの速度に彼女の姿がぶれて見えるほどだ。
そして急にこの場に風が吹き始める。
「きゅ、急に風が……!? 今日は無風だったのに……」
無能たちが武器を構えたまま警戒するがもはや遅い。
アダムを中心に小さな風の渦が発生して、さらに強烈な風が辺りに吹き荒れる。
そして人工的に発生した竜巻はアダムから離れて無能たちに突撃し、直撃した彼らは渦に巻かれたまま遥か遠くの上空へと運ばれていった。
陣の外から騒ぐ声が聞こえてくる。
無能が吹き飛ばされたのを見て周りの兵士たちが騒ぎ始めたので、そいつらに向けて拡声器を使って声を出す。
「今のは救国の乙女たるアリアの神風だ。敵に与する者がいたので、彼女の魔法が天罰を与えた」
布の陣で中の様子は見えなかったはずなので、吹き飛ばされた理由だけ言っておく。
これでアリアに対する神聖視も上がるだろう。実験体プラス名声上げにと我ながら無能たちを骨の髄まで利用したと思う。
「……私は魔法を使えない」
「知っている。だがこのほうが都合がいい」
アリアが椅子に座ったまま私を責めるような目で見る。
実のないあだ名は嫌なのか。どうやら魔法少女になりたいようだな。
「ところで吹き飛ばされた彼らは?」
「私の知ったことではない」
タイフーン発生装置で吹き飛ばすことに成功したので、後がどうなったかは知ったことではない。
無事に実験体として役に立ってくれたのでどうでもいい。
アリアはため息をついて、私を再度睨むのだった。
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