第29話 女王祭り上げ計画


 貴族との話し合いが終わった後、転移でスグル村へと戻って自宅で話をすることにした。

 せっかくなのでアダムやルル、潜入工作をしていないケチャップズなども集めた。

 そのため部屋はかなり人口密度が高い。もう少し増築すべきか。

 そんなことを考えているとルルが目に涙を浮かべて駆け寄ってくる。


「師匠! 師匠が死んじゃいました!」


 彼女は意味不明なことを叫ぶと、以前に渡した杖を私に差し出す。

 先端が折れたようで取れている。


「師匠が! 杖の師匠が!」

「……確かに私をこの杖と思えと言ったがな。この通り、私は生きているから問題ない」

「流石師匠!」


 このルルという少女は恐ろしい存在かもしれない。

 私の頭脳を持ってしても全く理解できない。冷や汗をかきつつ彼女の警戒レベルをあげて、とりあえず思考を放棄し本題に入る。

 集まった者たちは床に、私は無駄に華美な椅子に座る。


「全員集まったな、これより今後の展望を説明する。味方の貴族を増やして最終的に王を潰す。そしてアリアを新たな王にすえる」


 私の言葉に皆がざわざわと騒がしい。

 どうやら予想していた者がいないらしい。嘆かわしいな、何人かは考えていると思っていたが。

 アリアは私を見つめてくる。


「スグル、私はそんなの望んでない。それに能力も持っていない」

「だが君は平和を望んでいる。先に言っておくが、私が王になればそんなものはありえない」

「……すごく説得力あるね、その言葉」


 私は争いを嫌っていない。生物が進化する上で戦いは避けて通れない。

 生存競争によって成長していくのだから。

 故に私が王になれば戦火は広がる可能性が高い。


「私は極力戦わないなんて戦略をとるつもりはない。それに鉱山を占領し、必要量の鉄が手に入ればこの国から出ていく」

「えっ!? 師匠!?」


 ルルが驚いているが元々の予定通りだ。

 この国の生態系や魔法の研究があるのでしばらくは残る。

 だが最終的に私は元の世界に戻るのだ。

 研究の時間が減るのはごめんこうむる。それにそんな者が王になるなど論外である。

 

「……スグル、やっぱり出ていくの?」

「ああ。だから私が王という選択肢はありえない。では誰がやるかだが、私が操れる者でなければならない」


 そこらの有力貴族を王にしても、逆らわれる可能性がある。

 そうなると二度手間だ。信用できる者でなければならない。

 だが私が信用できる者は現時点で二人しかいない。


「だがいくらなんでもリタに王をさせるなどあり得ない、私とて本当に最低限は考える」

「ボクの扱いひどくない!?」

「こうやってすぐに叫ぶから無理だ」

「うう……別にできるとも思ってないけどさ……」


 盗賊の冒険者が王など無理に決まっているだろう。

 それにリタはやりたいことがあるようだし、その意味でもさせないほうがいい。

 

「なのでアリアしかいない。安心しろ、別に失敗してもかまわない」

「……私には無理」

「お前が無理ならばもう一つの案はある。AIによる国の統治だ、超高性能なゴーレムの頭脳が国を管理していく」


 だがこれはよくない。国の状況はすぐに変わるので、AIには自己進化の機能をつける必要がある。

 そうなれば結末は決まっている。完全なる管理社会、人は家畜に近い形で扱われる。

 合理性を考えれば人間より機械のほうが優秀だ。

 疲れないし眠らない、丈夫だし替えもきく。AIがその結論を出すのは間違いない。

 だがそんな世界に成長はない、つまりは永遠に続くディストピアだ。


「……それはダメ……な気がする」

「その通りだ。それは人間の尊厳を奪い、未来を消滅させる。だからアリア、君がやるしかない」

「…………」


 私とアリアの視線がぶつかる。

 彼女は自分が王になるなど想像できないのだろう。

 だが私はやれると思っている。今さっきもAIの管理社会を否定した。

 本人は確証を持っていないが何となく嫌な予感を持った。それこそが優れた能力だ。

 勘が鋭いのは決して偶然ではない。物事の状況などを見て予想できる力である。


「安心しろ。君には力を与える。戦う力、知識、礼儀、褥の技術、話術など」

「……褥の技術はいらない。それにそんな時間もない」


 アリアの視線が冷たくなった。

 皇女ならば役に立つこともあると思ったのだが。


「これらの内容ならば睡眠学習で身につけさせられる。リタの銃の技術も同じように実験がてら叩き込んだ」

「待って!? いつの間にかボク実験体にされてたの!?」


 リタの叫ぶは皆無視して、アリアに視線が集まる。


「だがどうしても無理ならばいい。その場合は先ほどのAIに任せる」


 AI管理はディストピアだが、そこに争いはなくなるだろう。

 アリアの望んでいる平和な世界だ。彼女がそれを選ぶならば構わない。

 だが――彼女はゆっくりと首を横に振った。


「…………それはダメ。私がやる」

「よく言った。ではアリアよ、これからはお前が貴族との交渉に立て。必要な物は貸し与える、もしくは用意してやる」


 私は内心ガッツポーズしていた。

 これで今後は貴族との交渉に出向かずにすむ。面倒なことはアリアに押し付けて実験ができる。

 彼女の負担は増えるが、争いを減らして欲しいという願いが原因だ。

 自分の発言には責任を持ってもらう。


「わかった。なら用意して欲しいものがある」

「なんだ? 君用のパワードスーツか? 脅しにヴィントを使いたいか? 大量の木偶の棒や金でもいいが」


 アリアは首を振ると私を指さした。


「スグルが欲しい。私ができるように手伝って欲しい」

「断る。私は研究をしたいのでな」

「私には貴方が必要。自分の発言には責任をとってもらう」


 アリアは私へ指さすことをやめない。

 ……迂闊な発言だったか。確かに必要な物は用意してやると言ってしまった。

 彼女から視線を外して、頭をかきつつため息をつく。


「……やれやれ。私としたことが失言だった。わかった、多少は考慮してやる」

「ありがとう」


 その言葉にアリアは胸に手を当てて微笑んだ。

 いつも表情が希薄に見える少女の感情表現。それに私の心拍数が上昇した。

 珍しいモノを見て好奇心が掻き立てられているのだろうか。

 研究のために今の一瞬を映像と画像で記録した。

 そして部屋中を見渡した後に彼らに発言する。


「では今後はアリアを王にするために動け。何か気になることがあれば答える」

「ボク実験体にされてたことについて聞きたいんだけど!?」

「どうでもいいことだ、以上。他に質問はあるか?」

「ひどくない!?」


 しばらくするとルルが手をあげて立ち上がる。

 何やら真剣な表情だが何となく予想はつく。


「師匠!? 国から出ていくって私はどうなるんですか!?」

「それまでにお前は鍛えてやる、以上」

「師匠! ありがとうございます!」


 他にはないかと見回すがアダムは特に興味もなさそうだ。

 ケチャップズも何やら話し合ってはいるが、聞いてこないのでないとする。

 

「ではこれで解散する。今後はアリアを王に据えることを前提に動き、王都はこの村になると心がけろ」


 わざわざ主要な面子を集めたのは、目的を頭に刻み込ませるためだ。

 命令された内容をやるのではなく、その目的を考えて動かせる。

 まぁ実際は期待してはいないが、知っていればもしかしたら動いてくれるかもしれない。 

 ダメ元で言っただけだ。


「師匠! 私は師匠のお役に立ちます! だからいなくなるまでにたっぷり教えてください!」

「スグル、ボクも銃をもっと強化して!」

「考えておく」


 こいつらが力を得る目的も聞いておくか。

 頭を覗いてもいいのだが、あまり繰り返すと後遺症が出る可能性もある。

 どうでもいい相手ならかまわないが、彼女らには一応の情もある。

 最低限のことは考慮してやろう。


「スグル、そろそろ村の建築も終わる。人を集めたい」

「そうか。ならジュペタの人間を強制的に移住させる」


 アリアを王にする計画は着々と進行している。

 この分ならば近いうちに終わりそうだ。想定外に手伝いを続けねばならないが、私が完全に手を離せる日も近いだろう。

 

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