第27話 裏工作


 王都の城にある華美な装飾品で飾られた王の間。

 そこでは家臣たちに囲まれた王が、イライラしながら玉座に座っていた。


「どうなっている! なぜ巨大ごーれむも美少女人形も来ないのであるか!」

「ははっ! 奴らは我らの要求を無視したのです! ジュペタの町も占領されてしまいました!」

「なんじゃと!? すぐに滅ぼすのじゃ!」


 激高して玉座から腰を浮かす王。

 それを見て他の家臣たちは動揺するが、一人の青年が王へと語り掛けた。

 スラッとした顔たちで、周りが豚体型の中で唯一細い身体をしている。


「お待ちください! 今の我が国に戦力の余剰はありません!」

「軍務卿! 貴様、王の命令に逆らうのか!」

「違います! しかし長き戦いで兵たちは疲れ切っています! これで更に内部に敵など無理です!」


 周りの大臣たちに糾弾されながらも必死に叫ぶ軍務卿。

 青年の兵たちと国を想う必死の言葉だ。

 だが王は彼を敵のような目で睨みわなわなと震えた。


「誰ぞ軍務卿を牢獄へいれるのじゃ!」


 王の号令によって近くで待機していた兵士たちが、一斉に軍務卿へと襲い掛かる。

 青年は反射的に身構えたが、逆らうとまずいと感じたのか無抵抗で捕まった。

 床に膝をつけられながらも王を見続ける。その目は真剣であった。


「王よ! このままでは我が国は滅んでしまいます! どうか!」

「ええい! さっさと連れて行かぬか! めざわりじゃ!」

「王よ!」


 部屋の外へと連行されていく軍務卿。

 周りにいた貴族たちはそれを馬鹿にしながら見続けている。

 だが怒りが収まらないのか、王は玉座の取っ手を殴りつけた。

 

「くっ! 即刻、余に逆らった愚か者どもを処分せよ!」

「ご安心ください。すでに国の暗部を放っております。奴らは超凄腕、決して標的を逃がしません。影すら踏ませずに殺すでしょう」

「そうかそうか! やはりそちはできる男だな、財務卿!」


 ようやく機嫌が直った王は高笑いする。

 それに従うように周りの貴族たちも笑い始めた。





~~~~





「ルル、お前に黒ずくめグループの知り合いはいないか? 村のそばをたむろしているのだが」

「いませんよぉ。そんな趣味の悪いの」

「ならば暗殺者の類か」

「スグルはどこからも恨みかってそうだもんね……」


 ルルの家の前まで来て確認したがやはり違うか。

 リタが当たり前のことを言ってくる。当然だ、天才は常に周りに恨まれる。

 以前にも同じようなことがあったが、村に黒ずくめの集団が近づいているのをドローンで確認した。

 誰かの知り合いの可能性を考え、聞きまわったが誰も心当たりがない。

 またどこかの馬鹿が暗殺者を雇ったのだろう。

 本当にありがたいことだ。わざわざ実験体をデリバリーしてくれるのだから。

 さて今回はどうするか……せっかくだからアレを試すか。


「師匠! 私が倒しましょうか?」

「いや。ちょっと蟲毒をやろうと思う」

「こどく?」

「ああ。来いケチャップズ」


 私の言葉に反応して周囲に十人ほどの黒ローブが現れた。

 急に現れた彼らにルルは驚いて、魔法と唱えようとする。

 

「落ち着け、こいつらは実験結果だ。以前に私を暗殺しようとしたので、返り討ちにして強化して洗脳した」


 彼らの身体は正常な人間ではない。

 足や腕が肥大化していたりオークになっていたり、身体の一部が鱗になった者もいる。

 もう実験体としては使えないので有効活用しているわけだ。


「血濡りの刃がこんなことになるなんてね……」


 リタが気の毒そうに周りの黒ローブたちを見ている。

 ちなみに今の名前はケチャップズだ。アダムが命名したのだが、名前なんぞどうでもいいので許可した。

 彼らは実験によって完全に心が死んだあとに洗脳した。そのため忠実な部下となっている。


「えっ? 彼らってあの血濡りの刃なの!? さすが師匠です!」


 元々のこいつらをルルも知っているようだ。本当に暗殺者として有名だったらしい。

 ケチャップズは戦い自体はあまり強くなかった。人を殺す技能に長けているが、相手が人型でなくなれば力不足で微妙だった。

 それがオークなどの身体の一部を手にしたことで解消されている。

 暗殺者としての技は失ってないので、使い道があると思って確保していた。


「ケチャップズ。村の周囲にいる奴らを捕縛、もしくは殺せ」


 ケチャップズは小さく頷くと姿を消した。

 私の指示通りに暗殺者を暗殺しに向かったのだろう。

 予想だがケチャップズが圧勝すると思っている。強化されているのも理由の一つだが、ああいう奴らは攻めると強いが攻められると弱いのだ。

 自分が同じことをされることを想定していない。


「ボクは援護しなくていいの?」

「むしろするな。奴らの実験だからなこれは」


 暗殺者同士の戦いだ。少しは見ものになるだろう。

 そう思ってドローンの映像を見れば、すでに黒ずくめたちはケチャップズによって全滅していた。

 そしてケチャップズは倒した奴らの身体を持って、私の周りへと戻ってきた。

 

「敵をせん滅しました」

「誰が瞬殺しろと言った。データがとれないではないか」

「り、理不尽すぎる……」

「……すいません」

 

 ケチャップズは口を揃えて謝罪の言葉を述べた。

 映像データを見ると一瞬の間に勝負がついている。

 早いのはいいことだが、ほとんどデータが取れなかった。

 残念に思いつつ倒れている暗殺者の一人の頭をわしづかむ。


「やれやれ、敵が弱すぎるか。こいつらは……国の暗部だな」

「えっ!?」


 リタが驚きの声をあげた。

 こいつらの記憶を読むと王のために、反逆者を殺したりしている。

 何と人生の無駄遣いだろうか。あんな無能な王に従うとは。

 倒れ伏しているこいつらに少し同情してしまう。


「せめて私の研究成果になることで、貴様らの人生を役立つものにしてやろう」

「ありがた迷惑の極みみたいな話だね……」


 何を言うか。あんな王の元で働くより、私の実験体になるほうが世界のためだ。

 今回は何を試すか……人間のゴブリン化はもう成功した。

 新しい新薬の実験か、兵器の生身テストか……。


「……可能であれば、彼らを我らの配下にください」


 可哀そうな奴らの有効活用方法を考えていると、ケチャップズの一人がそんなことを言い出した。

 他の者も首を縦に振って同意している。

 暗殺者として何か通じ合うものがあったのだろうか。


「暗部がそれなりにいて損はないか。いいだろう、お前らと同じようにしてやる」

「ありがたき幸せ」


 ちょうどサイボーグや強化人間の実験もしたかったところだ。

 身体の一部を機械にしたり、改造にとって超人的な力を発揮できるようにする。

 そうすればこいつらも使えるだろう。

 

「流石です師匠! 国の暗部まで抱き込むなんて!」

「当然だ、私にはたやすいことだ」

「抱き込む……? 洗脳して操ってるだけじゃ……」

「言うことを聞かせているのだから同じだ」

「同じじゃないと思う……」


 リタの言葉は無視して思考を続ける。

 意趣返しにこいつらを王都に忍びこませるのも面白いな。

 せっかくなので飛行能力や液状化能力を与えて、潜入力をかなり上げてやろう。

 人命は貴重だ。簡単に発見されて殺されたではもったいない。


「リタ、お前はこいつらの改造案はないか?」

「何でボクがあると思うの……ないよ」

「いい案を出せばお前の銃を改良してやったのだが」

「体中に毒を持たせようよ。自分の血を小刀に塗ることで、毒短剣を作れるし」


 リタがなかなか面白い案を出してきた。

 確かに毒人間はアリだ。暗殺者として運用するならば、いつでも毒を用意できるのは便利。

 戦闘能力の向上も期待できる。古来より毒とは強力な力だ。

 人間が恐れる虫は大抵毒を持っていて、彼らは小さいが攻撃力が凄まじい。

 数十倍も大きい相手を殺せるのだから。


「よくやったリタ。銃を強化してやろう」

「やった!」

「欲望を叶えるために恐ろしい発想しますね、リタ……」


 喜ぶリタからルルが距離をとっていた。

 

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