第25話 ジュペタ占領


 私はヴィントに乗り込んでジュペタの町の前に陣取っている。

 民衆が大混乱を起こしているのが見える。だが誰も攻撃してこない。

 この町の兵力はほぼ私が人質にしているからな。


「我々ジュラの町は、貴様らの理不尽な要求に対して処罰を下す。逆らうならば人権は保障しない」


 ヴィントに備え付けられた外部スピーカーが、町中に私の声を届ける。

 更に民衆に動揺が広がっていく。


「勝利した私たちに対して、貴方達の理不尽な要求は決して飲めるものではありません」


 同席しているアリアがここの町長が送ってきた手紙の内容を読んでいく。

 負けたくせに賠償金はなし。人質として捕らえられた兵士の即刻開放、更にはこのヴィントとアダムの譲渡。

 あまりに馬鹿げている。


「……よって私たちは正当にこの町を攻撃します」

 

 アリアの宣言が終わったのでコンソールを叩く。

 キャタピラが動いてヴィントが町へと突っ込む。正門を完全に破壊して中に入り、広場の中央で止まる。


「まずは挨拶代わりにここら一帯を焦土と化すか」

「それはダメ」

「やれやれ……ではしかたない。手はず通りに行うとしよう」


 再びコンソールを叩く。

 リタとアダム、そして大量の木偶の棒ズで構成された歩兵部隊。

 彼女らがヴィントの前に転移された。

 

「町長を捕らえてこい。逆らう者は木偶の棒ズに皆殺しにさせろ」

「抵抗する人は気絶させて」

「どっち!? ……じゃあとりあえず捕獲するよ、殺したら戻せないし」


 私の命令を無視して、木偶の棒ズに指示を出して進軍させるリタ。

 雇い主が誰かを忘れているらしい。後で減給だな。

 強化した木偶の棒ズのデータを採りたかったのだが。

 周りを見ると民衆が走って逃げまとう姿が見えた。無駄な事だ、人の足で逃げ切れるわけがない。

 仮に馬より速く走れたとしても、すでに町の周りには電磁障壁を張っている。

 彼らに逃げ場などない。 


「実験体養殖場としては微妙だな。スラムが多くて栄養が足りてない者が多い」

「ここは町だから。あ、リタが戻ってきた」


 アリアが指さす方向には、リタたちが町長を捕縛して帰ってきた姿が見えた。

 奴は口に猿ぐつわを噛まされ、両手を縄で縛られている。

 私とアリアは無様な男の目の前へと転移する。


「いいファッションだ、以前の成金よりも似合っているぞ」

「ッ!?」


 もごもごと何かを話す無能。

 だが聞く価値などあるはずもない。もはやこいつの役目は一つだけだ。

 リタに合図をする。彼女は町長の首元に剣を突きつけた。


「賠償としてこの町の権利は全て私の物だ。承諾の返事以外は聞いていない」


 アダムが無能の猿ぐるわを握って引きちぎる。


「き、貴様ら! 王の命令を……! ひっ!?」


 町長がいきなり不快な声をあげたが、リタが喉に軽く刃を当てると黙った。

 本当に無能だな。承諾の返事以外を喋るなと言っただろうが。 


「わ、わかった。渡す……だから私の命は……」

「安心しろ。殺すつもりはない」


 無能はほっと息を吐いた。

 元より殺すつもりはないのだがな。私は命を大切にするのだ。

 数十年のリソースをつぎ込んだモノを、データ採りに利用せず殺すなどあり得ん。

 初めてこいつが私にメリットをもたらすことになる。


「無能の思考パターンをシミュレートする電子頭脳が欲しかった」

「で、電子頭脳?」

「安心しろ。お前は殺さない、それどころか半永久的に生き続ける」


 無能を亜空間へと転送する。こいつは液体につけてガラスの中で脳を培養し続けるのだ。

 理論的には死なないが、千年後にどうなっているかは不明。

 私はその時には生きていないし、未来の人間に結果を確認するのは託そう。

 拡声器を手元に転送して町に私の声を届ける。


「これよりこの町は私の支配下となった。安心しろ、私にメリットをもたらす限り貴様らの安全は保障する。逆にデメリットを与えれば保証しない」

「なんかボクたち悪役みたいなんだけど……」


 悪でも正義でもどうでもいい。そんな個人の主観で変わる言葉に興味はない。

 重要なのは私に利益と不利益のどちらをもたらすか。


「以上だ。貴様らの賢明な判断を期待する」


 私の宣言が終わると町に動揺が走った。 

 ざわざわと話し声が聞こえ始める。今度どうするかについてだ。

 ここから逃げようとしている者もいる、だが電磁障壁をしばらく残すので無理だ。


「実験体を逃がすわけないだろう」

「スグルって本当鬼畜だよね……そういえば町長の家に色々な本があったよ」

「ほう、案内しろ」

「いいけどスグルって字を読めるの?」

「読めないと思うか?」


 リタは首を横に振った後、方向を変えて歩き出した。

 すでにこの世界の文字などは全て覚えている。自力で本も読めるし会話も問題ないレベルだ。

 彼女について町長の家へと向かう。

 この世界の本はかなり高いのだが、紙が貴重なことが大きい。

 アリアから奪った魔物図鑑も売ればそれなりの額になるらしい。

 今更だがあんな田舎の家によく本があったな。

 考え事をしている間に目的地について、勝手に中に侵入する。

 大漁の本が置いてある部屋に入って、本棚から何冊か手に取って表紙を見る。

 

「ふむ……紅い鶏冒険記、教会の聖典、悪魔辞典……随分センスのいい並べ方だ」


 教会の聖典と悪魔の辞典を並べておくか普通。さすがは無能の発想だ。

 少し興味が出たので、鶏と教会の本を戻して悪魔辞典のページを開く。

 パラパラとめくっていくと、以前に見た珍妙な生物の絵があった。


「ふむ。あの電気ウナギの亜種は悪魔のようだな」

「前にボクもそう言ったはずなんだけど……」

「あの言葉だけでは信用ならん」


 更に目を通していくと悪魔のことが色々書いている。

 悪魔はかつて世界を滅ぼしかけたが、勇者たちがその命を賭して封印した。

 悪魔は一匹ですら国を壊せる。何体も揃えばこの世界の危機である。

 魔法を使える上に力も強く丈夫で弱点がない。

 そんな感じのことが記載されている。


「たしかに一体で核レベルのエネルギーを持っていたな。しかしこれはいい知らせだ」

「な、なにが……?」

「あの珍妙な生物はまだいるということだろう。この本を読み解けば見つけられるか、もしくは封印されているなら復活も可能だ」

「いやいやいや!? その本の内容見たの!?」


 読み解くと言ってるだろうが。悪魔とやらを捕獲する装置も考慮せねばな。

 更に読み進めると悪魔の封印は、オーガが解く手段を知っているとあった。

 これで次にやることは決まったな。幸いにも以前に捕らえたオーガがまだ生きている。


「オーガが復活させる術を知っているらしい。この本はいいな、あの無能も役に立ったし俗物へと昇格させてやる」

「ちょっと!? 本当に復活させるつもり!?」

「当たり前だ。次は三体くらい固まらせたデータが欲しいな」

「終わりだ……ボクたちが世界を終わらせちゃうんだ……」


 リタが壊れたようにブツブツと何かを唱え始める。

 こいつは何をしているのか。しかし悪魔の封印というのにも興味がある。

 仮死状態にしているのだろうか。あるいは私の知らない方法かもしれない。

 魔法という存在についてはまだ不明な点も多い、少しずつ解明はしているが。

 周りの見るがまだ面白そうな本がけっこうある。

 すべて持って帰るために本棚ごと亜空間へと転送した。

 これでどこでも取り出して読むことが出来る。大量にあるので読み切るのにはしばらくかかる。

 全てデータ化して保存しておくか、本は劣化するし探すのも面倒だ。

 そうすれば実物はいらないので貴族への結納品にしてもいい。

 

「スグル……ボク、悪魔に殺される前に殺りたいことがあって……」

「悪魔程度に怯えるな。私が一匹倒しただろうが」

「いたたたたた!?」


 リタを正気に戻すために電流を流しつつ、町長の屋敷から金目の物の回収を続けるのであった。

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