第6話 警備役


 念のために村の周囲に電磁バリアを展開し、アリアを乗せて車を飛ばして王都の近くにやってきた。

 かなり大きな城などもあり王都と呼ぶだけの規模はあるようだ。

 これならば目的の警備役も見つかるだろう。世界地図についてはまだ金銭がないので無理だが。


「この車って便利ですね、私も一台欲しいのですが」

「私が君に必要と思ったならばな。ここから先は徒歩で行くぞ」


 無人となった車を異空間へ転送して、ホバーブーツを起動し王都の入り口の方向へと進もうとする。

 

「その宙に浮く移動も目立つのでは?」

「……この移動が当たり前すぎて忘れていたな。久々に歩くとするか」


 アリアに言われてホバーを停止する。

 慣れとは怖いものだ。眼鏡をつけているのに探すことがあるのと同じだが。

 改めて入り口の門まで二人で歩くと見張りの兵士がこちらに駆け寄ってくる。


「ここは王都セルジアである! 何の用でここにやってきた!」

「村の警備役を探しに来た」

「ふむ……特に危険な魔法道具の類は持っていなさそうだな。街に入ることは許可する、ただし問題を起こせばすぐに叩き出すのでそのつもりで」


 兵士は俺達から離れて元の位置へと戻った。

 一人一人確認しているのだろう、ご苦労なことだ。


「……スグルの装備が少し心配でしたが問題なさそうですね」

「だから言っただろう、バレることはないと。これならいくらでもテロができるな、このまま王城を侵略するか……?」

「スグル、物騒な考えはやめて」


 見られたら面倒そうなものは全て異空間に転送しておいた。

 電磁バリアも無効にしたので気取られることはない。

 門をくぐって王都へと入ると大通りに出る。道ゆく人に場所を訪ねながら、無事に冒険者ギルドへとたどり着いた。

 木造のそれなりに立派な二階建ての建物だ。仮にも組合の代表場所が貧相だったら困るが。

 

「冒険者ギルドという名前なのに、職業斡旋もやっているのか」

「固定職に憧れる冒険者もいますから」

「それはもう冒険者と言わないだろう」


 固定職の冒険者か……遺跡研究者ならば該当するのだろうか。

 だがそれも該当するかは怪しいところだ。

 受付カウンターの元へ向かい女性の受付に話しかける。


「住み込みで村の護衛役を探している」

「承知しました。村の場所はどのへんにあるかお教えいただけますか?」

「ここから北に馬車で一週間ほどだ」

「仕事内容と条件は?」

「村の護衛の指揮だ。給与は月に金貨一枚。向上心があり強さを求める者を募集している」


 名前や村の規模などの質問内容に答えていくと受付嬢が怪訝な顔になる。


「あの……本当にこの条件なんですか? 失礼ですが小さな村で月に金貨一枚払えるとは……それに小さな村の護衛で強さを求める者って……」

「前金として金貨二枚ある」

「……本物ですね。わかりました、では募集します」


 受付嬢は金貨を確認した後に応募用紙を記載し、建物の中心にある依頼一覧の板に貼り付けた。

 応募は受諾されたようだ。やはり言葉を交わすよりも金を見せたほうが話が早い。


「クエストではなく仕事斡旋なので、雇うかはスグル様が決めてください」

「そこの椅子に座っているから、応募に興味をもった冒険者はこちらに知らせてくれ」


 そう言い残して近くのテーブル付きの椅子に腰かける。

 アリアが向かい側に座って酒を注文した。彼女は金銭を持っていないはずだが……仕方がない、以前の損害手当で払うとしよう。


「街を歩いて回らないのですか?」

「大丈夫だ。すでにドローンを展開している」


 透明化させて空に三体、地上に四体飛ばして映像を撮っている。

 この瞬間も送られてくるデータを確認しているので、決して無駄な時間ではない。

 

「そうですか。ところでどんな人材が欲しいのですか?」

「無能でなければいい」


 流れの冒険者に大した期待はしていない。

 それなりに戦えることと最低限の頭を持っていれば。

 水筒を胸元から取り出す振りをして手元に転送し、それを口付けて水分を補給する。

 募集が貼られた掲示板には人が集まっている。集音すると私の依頼に興味を持った者が複数いる。

 そのうちの一人が受付に話に行ったようだ。先ほどの受付嬢がこちらに向かってくる。


「スグル様、応募がありまして」

「ハゲは断れ」

「えっ、会わないんですか……?」

「くどい」


 受付嬢を追い返して街のデータの確認を再開する。

 

「髪差別反対」

「いかにも筋肉馬鹿な奴はいらん」


 いつの間にかベーコンを頬張っているアリアに返事する。

 酒だけでなく料理も頼んでいたようだ。

 さっきの男は頭が悪いのと脳波パターンが犯罪者に近く、雇うのは論外だったのもある。

 背負った武器も大斧でいかにもなパワー系はいらん。

 再び受付嬢がこちらにやってくる。


「あの……応募者が見つかったのですが」

「こちらに連れて来てくれ」

「わかりました」


 受付嬢は一人の冒険者を手招きする。中世的な顔つきで少し身長が低く細身。

 皮の装備で胸元などの一部のみ金属で覆ってある。

 武器も腰や太ももに短剣を取り付けている。


「ボクの名はリタ。斥候役としてソロで活動してる、募集を見て……」

「志望動機に興味はない。私のテストをクリアすれば雇う、外に出てくれ」


 椅子から立ち上がり冒険者ギルドから出る。

 リタとアリアが付いてきているのを確認すると、そのまま街の外へ向かった。

 街から少し離れた場所に着き、周りに誰もいないことを確認する。


「ではテストを行う。この銃は弾丸を五連射できる。装填された全ての弾丸を防げばお前の勝ちだ」


 リタに見せるため木に向けて銃を五回撃つ。弾丸の速度を遅くしているので、反射神経のいい者ならば回避可能だ。

 さらにトリガーを引くが弾丸が出ないことを見せ、弾倉を装填しなおす。

 

「わかった。いいよ」

「ではテストを開始する」


 リタは照準を狂わせるために機敏に動いている。

 私は銃の自動照準機能を起動して引き金を引いた。

 一発目、二発目は簡単に回避された。三発目と四発目は右肩と左肩をかすめたが当たらない。

 そして五発目は左手に装備された小さな皮の円盾バックラーで防がれた。

 自動照準機能とは言えど、撃ってから回避行動を取られては当たらない。

 

「これでクリアだね」


 クリアしたことで安堵するリタ。だが私は銃を構えたままだ。

 何故ならば……まだ銃に弾丸は残っている。私は油断しきっているリタに引き金を引いた。

 計算外の六発目が発射される。


「!?」


 リタは腹部に当たる寸前、とっさにバックラーで防ぐ。

 回避しづらいように体の中心部を狙ったため、防御を選択したようだ。


「合格だ。お前を雇うことにする」

「……五発って話じゃなかったの?」

「可能なのが五連射までなだけで弾丸自体は六発ある」


 紛らわしいように説明したのは事実だ。

 不意打ちにどう対処するかを見たかった。とっさの危機に役に立つ人材かどうか。

 リタはこちらをジト目で見た後。


「まぁいいか。雇ってもらえるなら……改めてボクはリタ。よろしくお願いします」

「私はスグル。さっそくだが村に戻って仕事をこなしてもらう」

「継続的な村の護衛だよね? 見回りをすればいいの?」

「ブラックウルフが二十体ほど出ている、全て駆除してくれ」


 リタは私の言葉に怪訝な顔をした。


「二十体は一人じゃ無理だよ」

「安心しろ。部下をつけるしこの銃もくれてやる」

「え、その魔導具もらえるの?」


 リタに銃を手渡すとしばらく眺めた後、近くにある岩に向けて撃った。

 弾丸が岩を貫いて穴を開ける。さらに周りの木などにも引き金を引いていく、どうやらかなり気に入ったようだ。


「ありがとう。この銃っていい武器だね」

「礼はいらないから結果で示せ。部下については村に戻ってから説明する」

「わかった」


 面倒だが冒険者ギルドに雇用の報告をした後、転移用ポータルを街の外に設置して村へと戻るか。

 今後は転移でこれるので楽になる。

 後はリタを使ってブラックウルフを駆除すれば目的は達成だ。


「……ダメ元だったけど、本当に力を得られるかもしれない」

 

 リタがぽつりと呟いたのが聞こえたがどうでもいいな。

 力を求めているなら好都合な程度か。

 

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