天才科学者の異世界チート暴走記 ~SFの力で街づくり~
純クロン
第1話 異世界に舞い降りた天災科学者
辺りに充満した砂ぼこりが、腰ベルトの
付近を確認するとそばに煙をあげている小船型タイムマシン。それ以外は生い茂る木々と草、土だけが確認できる。
どうやらここは森のようだ。
「……ふむ。どうやらタイムマシンはうまく起動できたようだな。私の時代の地球でこんな緑豊かな場所など、電脳空間か観光客で賑わう植物園ぐらいしかありえない」
気持ちが高揚しているのが自分でもわかる。左腕につけたブレスレット型の健康診断機が、心拍数の上昇を通知するアラートを鳴らすが知ったことか。
ようやく私はやり遂げたのだ。過去への移動……タイムワープを。
「ここは何世紀のどこだ? 本来の予定だった十七世紀の日本に行けているのだろうか」
右腕の時計を確認する。過去に向かうのだから当然時計もその時代を刻むようにしている。
例え白亜紀だろうが正確に時を観測できるはずだ。
時刻は正常な範囲を示しているが、表示された年代がおかしい。九九九九年を表示している。
先ほどのタイムワープの衝撃でバグったのだろう。
「爆発くらいは耐えられる設計だったが強度が足りなかったか。……まぁいい。村や街などの文明を確認できれば、おおよその年号は把握できる。東西南北の四択……北にするか」
指を鳴らしてタイムマシンを異空間へ収納し、靴のホバーを起動させ北へと向かう。
同時に電磁バリアを展開し、木々をなぎ倒しながら時速百二十キロで森を進行する。
自然が貴重な私の時代なら終身刑は免れないが、ここでは全く問題がないだろう。
しばらく進むと森が開け、木造の家がいくつもある集落が見えた。
「ふむ。あの趣きは中世ヨーロッパか?」
木造民家の造りと一軒だけだがレンガ造りの家があるのを見ると、少なくとも目的地だった日本ではない。
予定のワープ場所からずれてしまったのは確定のようだ。
ホバリングのスピードを落として集落へと近づいていく。
「過去に戻れていれば何でもいいが……むっ?」
集落の中で何やら人が集まっていて騒がしい。眼鏡のふちを触って望遠モードに変更し、騒動の元を見ようとする。
面倒そうなことが起きているならば他の集落を探してもいい。
どうせ喧嘩の類だろうと思っていたのだが……豚のような、いや豚の顔をした大柄の人型が暴れている。
私の知識にあんな生物は存在しない。
「……興味深いな。未来に記録が残らず絶滅した生物か? あるいは突然変異種か?」
二足歩行の豚など、存在したとすれば世紀の大発見だ。
貴重なサンプルを逃すわけにはいかない。緩めていたスピードを戻して急いで豚人の元へ向かう。
呼び方を人豚と迷ったが人魚は人のパーツを上に持つのだから、その理論で豚人とすることにする。
目的の生物に声が届く距離まで近づく。そこでは何人かの男が倒れ伏していた。
頭から血を噴き出しているのを見ると、この謎生物にやられたと見ていい。
そして彼らの近くには剣や槍が落ちていて、豚人も一本の剣を持っている。
「面白いな。武器を持った人間を倒した上に、それを奪って使う生物とは」
「逃げてください!」
知的好奇心のままに状況を観察していると、少し離れた場所から銀髪の少女が叫んでいる。
自動翻訳機が機能して日本語になっているので、何の言語を喋っているかは不明だがおそらく英語だろう。
どうやら警告しているようだが、私はこの豚に興味があるので逃走はありえない。
豚人はこちらに気づいて雄たけびをあげる。
「ブヒィィィ!」
「叫びは豚と同様なのか。二足で武器を扱えるならば、知能は最低でも猿レベルはありそうだ。倒した人間を食べていないならば肉食ではないのか?」
「逃げてくださ……?」
豚人を観察している間に、離れていた少女がいつの間にかすぐそばに来ていた。
私に触れようとして電磁バリアに手をはじかれてしまったようだ。
そこらの獣が触ろうものならば感電死するが、人相手には威力を制限しているので少し強い静電気程度になっている。
「うるさいな。研究しているのだから少し黙ってくれ」
「そんなこと言ってる場合ですか? オークですよ?」
「ふむ。あれはオークと言うのか……名称があるならばメジャーな生き物なのか? ……中世に有名でありながら未来には伝わっていないだと?」
「ブヒィ!」
しびれを切らしたようでオークがこちらに襲い掛かってくる……これはまずいな。
感電死されたら困るので急いで電磁バリアの威力を弱める。
「ブヒィ!?」
私に向けて振り下ろされた剣が透明な壁に弾かれ、豚人は動揺している。
危なかった。もう少しで貴重なサンプルがこんがりの焼き豚になるところだ。
「あの……あなたは魔法使いですか?」
首をかしげて少女が呟く。……しまったな。中世ヨーロッパで魔法に誤認されるのはまずい。
この時代は魔女狩り全盛期の可能性がある。仮に国に攻められても剣や槍程度の兵士などせん滅できるが、オークの情報が仕入れられない。
「私は剣士でな。見えないほど速く剣を振るって弾いているだけだ」
「……」
少女は俺を無言で見ている。
我ながらすさまじく苦しい言い訳だが、とりあえずこの場で魔女と騒がれなければいい。
この油断すればオークに殺されると思っている少女ならば、迂闊に突っ込んでくることはあるまい。
「でも剣持っていないですよね?」
「いいか? 人間の頭脳は優秀だ。長生きで利口な者ほど迂闊に喋らない」
俺の意図を感じ取ったようで少女は頷いて口を閉じた。まさかここで突っ込んでくるとは思わなかった、やるではないか。
オークに再度目を向けると、奴は電磁バリアに対して何度も剣を振るい続けている。
他の対処法を考えないところを見ると、あまり知能が高いとは言えないようだ。
「生態系なども調べたいが……とりあえず生け捕りにするか」
懐から銃を取り出してオークに向けて引き金を引く。
自動照準の弾丸が腕に直撃して奴は倒れ伏した。
「た、倒せたのですか?」
「ああ。眠らせただけだがな……このオークとやらは私がもらい受ける」
目の前の脅威が倒れたことで冷静さを取り戻したのだろう。
少女は手で服の汚れを払う。
「構いません。ありがとうございます、
顔色一つ変えずに話す少女。
ふむ……状況を見極める力を持っているようだ。性格は不明だが頭は悪くない。
話も早そうなので彼女から情報を仕入れるとするか。
「こいつを倒した報酬代わりにこのオークとやらのことを教えて欲しい」
「……分かりました。ですがまずは彼らを……」
彼女はオークにやられた者たちに視線を移した。
頭から血を流して倒れているし、よく見れば腕や足も折れているが彼らにはまだ息がある。
だが中世の医療技術では助からない可能性が高い。ましてやこんな田舎ではまともな治療もできまい。
もう少しすれば死ぬだろう。私ならば完全に治療できるが……魔法使いに認定されては困る。
助ける理由も特にない。
「剣士様、助ける手段はありませんか?」
「魔法使いならばあるのだろうがな、あいにく今は剣士でね」
流石に剣技で治療したと言うのは無理がある。介錯やさばくのならばいくらでもやれるが。
少女は俺の言葉に少し考え込んだ後。
「剣士様。その超絶な剣技で彼らを助けてくださりありがとうございます。貴方が間に合わなければ無傷では済まなかったでしょう」
「……そういうことか。ならば恩義に感じ取ってもらいたいものだな」
「もちろんです」
食えない娘だ。
つまりこういうことだ。オークによる人的被害はなかったと。
現在ここで見ているのは我々だけ。彼らは気絶してしまったが怪我する前に助けられた。なので無傷なのは魔法ではない。
この少女から情報を仕入れる予定だし恩を売っておくか。
持っていたままの銃のリボルバーを右回転させる。それにより弾丸が治療用ナノマシンに変わったのを確認し、オークに倒された者たちへと打ち込む。
彼らの傷が塞がっていき、骨が音を鳴らしながら元の状態へと再生していく。
「しばらくすれば目が覚めるだろう。後は放置してかまわない」
「では私の家に来てください。そこで報酬などを支払いましょう」
本来ならばあり得ない光景のはずだが、少女は特に気にせずに私に背を向けて歩き出す。
随分と肝が据わっているな……話が早くてありがたいが。
空中にコンソールを展開し、オークを囲むように金属棒を出現させる。
この棒の間には電磁バリアが発生している。
これで逃げられることはないだろう。少女の後ろをホバー移動でついていく。
数分ほど移動するとレンガ造りの家の前に着いた。どうやらここが彼女の家のようだ。
この集落で一番豪華な家だったことを考えると、この娘は村の権力者の類らしい。
「君はこの集落の長で間違いないか?」
「私はアリア。ここの村長をしています」
やはりか……状況的には信じられるが少し不思議ではある。
私は年齢や性別よりも能力を重視するが少数派だ。
中世でこんな少女が、小さな村とはいえ長を任されるとは……。
いったいどんな基準で選ばれたのだろうか。
「入らないのですか?」
アリアは扉を開いたまま俺を待っている。
いかんな、これは時間の浪費だ。話をするにしても考えるにしても、落ち着いた場所のほうがいい。
扉をくぐって家の中に入る。一階建ての家具は少ないが綺麗に掃除された部屋、その中心に置かれた机とセットの椅子に座るように指示され腰かける。
「パンでよろしいですか?」
「話の邪魔だから不要だ。それよりは飲み物だが……私が用意しよう。コップはあるか?」
会話するならば喉を潤すものは必要だ。下手に渇けば口が堅くなる可能性もある。
この時代は水も貴重でビールを常飲していたはず。アルコール度数は低いようだが、話の邪魔になりかねない。
彼女は頷くと、食器棚から二つのコップを取り出して机に置いた。
私は水筒を取り出してダイヤルを紅茶モードにセットし、置かれた容器になみなみと注いだ。
紅茶の香りが部屋に充満し、湯気が吹きあがる。
「すごい剣士様ですね。……そろそろ無理が出てくるのでやめて欲しいのですが」
「周りに目がないなら、君が漏らさなければ済む話だからな。これだけ恩義を受けてバラそうとすれば……分かっているな?」
「はい。必要ならば言葉封じの魔法でもどうぞ」
「それをしようとすれば頭をいじって記憶を消す必要があってな」
少しばかり脅してみたがアリアは無表情のままだ。
口が軽そうにも見えないし記憶を消すのはかなり手間……それをするくらいなら存在を消したほうが早い。
そこまでする必要までは感じないので、ひとまずこれでいいとしよう。
彼女を観察しながら次に話す内容を考え始めた。
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