第四章 聖女が辺境にやってきた!

第一話 平穏是又日常也#0


 おっと、そこの荷馬車、止まってくれ。

 ここから先は荷物検査を終えてからになる。

 積荷と人員を、そこの書類に書いてくれ。字が書けないなら代筆するので口頭で申告してくれ。

 あぁ、字は書けると。よかった。こちらも楽ができて助かるよ。


 それでは商売手形を出して貰えるかな? ん? 持っていない。

 ということは、流れの旅商人さんかい?

 じゃぁ、この街で君の保証人になってくれる人はいるかい? あるいは商工会に登録していたりは?

 そうか……知人もいないし商工会にも登録していない、と。

 だったら入場税と保証金をあわせて支払ってもらわないといけないんだ。すまないね。

 保証金に関しては騒ぎさえ起こさなければ街を出る時に返却するからあまり悪く思わないでくれ。


 さて行商が目的ということらしいが、物が普通の商品なら商会へゆくと良い。

 どこでも買取はしてくれるだろう……適価かどうかまでは保証しかねるので、そこは自分で見極めてくれ。

 ただ、魔獣素材や魔力結晶なら話は別だ。申し訳ないが外部からの買取はギルドでしか行ってない。

 ギルドハウスは、この正門をまっすぐ行けばすぐにわかるよ。

 あと、仮にギルド以外で買い取ると申し出られても絶対に受けないでくれ。この街では重罪になる。

 売った方も買った方も収監されるので絶対に気をつけるように。

 ははは。脅すようですまない。

 街の中は衛士や警士が見回りしているし、規則も周知されているからそんなことはまず起きないだろうが、どこにでも不届き者はいるからね。念の為、ってやつさ。

 買い物に関しては、一般的な消耗品ならロッソ商会、魔族由来の商品が欲しければツヴァイヘルド商会に行くと良い。王都ほどではないが、大抵の物は手に入るだろう。

 逆に辺境ならではの何かが欲しいというなら職人街を訪れると良い。東通りでは武器や鎧などの工芸品、西通りでは食品や加工品などを売っている。

 あと……まぁ、あまりお勧めはしないが『はぐれもの町』に行けば、結構な掘り出し物が見つかることもある。

 ただ衛士や警士の目は全く届いてないので、中の事は全て自己責任だ。それだけは覚悟しておくように。

 まぁ、王都のスラムなんかと比べれば格段にまともな場所ではあるがな。用心に越したことはない。


 うん? まずは腹ごしらえがしたい?


 ならば東通りの『金の麦穂』亭がお勧めだな。比較的安価で量も多い。それでいて味も悪くない。俺も良くいくぞ。

 あるいは西通りの屋台広場も悪くない。なんの店が出てるかはその日次第だが、いろいろな料理をつまみ食いするのも乙なものだ。


 ふむ。手頃な宿場かね……値段を重視するならギルド近くにある『銀翼の家鴨』亭かな。

 基本的にはギルド指定の探索者御用達だが、空き部屋があるなら一晩程度は泊まれる。

 安宿だがなにしろギルドの息がかかっているからな。安心さで言えば高級宿を上回るかもしれんぞ。

 まぁ、その分、サービスは最低レベルだが。

 東側にある『オークウッド』旅館も悪くない。見た目こそボロな木造建築物だが、サービスは行き届いている。

 俺にはよくわからんが、あのボロさが趣き深いとかで人気もあるぞ。まぁ、その分お高くはあるがな……。

 これ以上高い宿に関しては……すまん。門番の安月給では入ることもできなくてな。


 さて、そろそろ荷物のチェックも終わった頃だな……よし。異常なし、と。

 あぁ、通って良いぞ。


 おっと、これだけは言っておかないとな。

 なに? 言われなくてもわかるって。

 まぁ、そう言うなよ。これも仕事のウチって奴さ。


 あー……コホン。


 辺境随一の都市、『コンコルディア・ロクス』へようこそ。

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