第四話 スールズ・カプリッチョ#0
魔族が人族と大きく違う点がある。
それは、全ての魔族が『最後の神』による祝福を受けている為、その全員が大なり小なり『聖』属性を持っているということだ。
なにしろ生まれてくる子供全員が神から直接祝福を受けるのだ。その効果たるや想像に難くないだろう。
人族に比べ魔族の方が人口が少ないということもあるが、やはり神そのものが実在するという事実も無視できない。
人族の神々はその全てがこの世界から去っているのに比べ、魔族には最後の神『ユリヅキ・アマコ・セリザーネ』が存在しているのだ。
かの神は、決して強力な神性を持っているわけではないが、それでも充分な祝福を授けることができる。
力なき代わりに慈愛に満ちたユリヅキ神は、神代の時代から魔族に子が誕生するたびに直接祝福を授けていたのである。
そのため、魔族は悪霊や幽霊といったこの世の理の外にいる存在に対しても比較的優位に戦える。
聖職者かそれに類する者の助けが無ければ攻撃を当てることすら儘ならぬ人族に対して、大きな差が付いていると言えるだろう――その点にだけ注目してみれば。
だが正直な話、これはさ程価値のある差ではない。
そもそも悪霊や幽霊の類はそれほど数の多い存在ではなく、人族が祝福を受けていないとはいえ武器に使う為の聖水一瓶でも用意していれば充分に対応可能である。
動きも緩慢なモノが多いし、基本的には一定のエリアから出てくることもない。
それらの特性から見れば、テリトリーを避ければ良いだけのことだし、どうしても戦わねばならぬという理由があるのならば、充分な準備をしてから挑めばよいだけだ。
何一つ問題になることはない。
人族が魔族に劣っている点がある。
ただそれだけの事実を認めることさえ出来れば、なんということもない話である。
しかし人族の聖職者達は、ただそれだけのことを認めることができなかった。
なぜなら何よりも敬虔な信徒であり、最も神々の寵愛を受けている筈の人族が、よりによって神々の祝福を受けることができていないという事実を認めることができないからだ。
未開の蛮族である魔族に劣るなどという事があってはならない。
故に人族の聖職者はこう嘯いて自分たちを慰めたのだ。
『魔族は、悪魔に授けられし力を持つ呪われし者達』であると。
その現実逃避にどれほどの意味があったのか――それは今更語るまでもないだろう。
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