第四話 迷宮狂想曲#0


 一言でまとめて呼ばれことが多い『魔物』だが、実際には一つの区分が存在する。

 即ち、コモン種とオリジン種である。


 コモン種とは、いわゆる『普通』の魔物を指している。

 一般的に見られる魔物の殆どがこれに属しており、数も一番多い。

 その殆どが普通に生命維持活動を行い、繁殖によって増える。殺せば死ぬし、その長さはともかく歳を経ればいずれ老衰で死ぬ。

 もちろん死霊種や幻想種のような例外もあるが、殆どの魔物はこの法則に従う。


 オリジン種は『特別』な魔物を指す。

 これはいわば『始祖』と呼ばれる魔物であり、コモン種とは根本的に違う存在である。

 コモン種と違いオリジン種は寿命で死ぬことはない。また物理的に殺したところで死ぬこともない。

 厳密に言えば死ぬことは死ぬのだが、一定の時間を経た後に復活するのだ。

 これは死体を原型を留めぬまで破壊しても、完全に灰になるまで焼き払ったりしても効果はない。

 一定の時間が経過すれば無条件で復活するのだ。身体がなければ新たに生成されるし、老衰死してもまた復活する。


 では、オリジン種を殺すことは不可能なのか?


 答えは否である。

 オリジン種が不死なのは、その誕生システムに理由がある。

 コモン種と違いオリジン種は生殖によって誕生するのではない。

 空間に漂う魔力が一ヶ所に集中し『魔力壺』と呼ばれる溜まりとなった時、そこから魔物が誕生するのだ。

 この時に誕生する魔物は完全にランダムであり、事前に知ることはできない。一応『魔力壺』が大きければ大きいほど強力な魔物が誕生する傾向にあるが、それも確実ではない。

 そして一番重要なのは、この繊細な魔力の流れによって産まれる魔力壺は非常に脆いということだ。外部からちょっと魔力をぶつけてやれば容易に崩壊し、再構成されることはない。

 オリジン種の生命はこの魔力壺から供給される魔力に依るものであるため、『魔力壺』を破壊されればその時点で不死性どころか命すら失う。

 どんなに強力なオリジン種であってもこれは避けられぬことであり、ある意味コモン種よりも倒すのは楽かもしれない――魔力壺を見つけることができれば、だが。

 そのためオリジン種は自分が誕生した魔力壺から遠くに離れることを好まないが、別に近くにいなければならないという制約はない。魔力壺を放置し、遠くで活動するオリジン種も存在する。

 なお、オリジン種自身はコモン種との生殖は可能である。ただしそれで誕生するのはコモン種であり、オリジン種であることはない。

 またオリジン種同士での生殖も可能だが、その結果誕生する魔物も必ずコモン種だ。これに関して例外は無い。

 つまりオリジン種は魔力壺以外から産まれることはなく、それ一代限りの存在であるのだ。


 よく誤解されているがオリジン種であることと、モンスターの強さに相関関係はない。

 例えばオリジン種の中にもコボルトやゴブリンといった低級の魔物はいるし、それすらコモン種と比べて特に強いわけでもない。

(もちろん不死性によってもたらされる強みはあるが)

 『コモン種』と『オリジン種』の違いは、あくまでも誕生方法によってのみ区別されるのだ。


 なお、人族と魔族においてオリジン種が確認されたことはない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る