二人デヒトツノ愛

ルート

知らなければ、幸せ

二人デヒトツノ愛

何度目かわからないため息を吐く。

右手には憧れたブランドバッグ左ひじにビール。

疲れ切ったOL図鑑の表紙になれそ。

「はあ」

また、ため息。

しばらく、ただ歩く。

「この公園寂れた感じ、通りかかるだけでなんか持ってかれそうよね」

街灯に照らされた小さな公園はベンチ以外は闇の中。

こんな時間に子供がいたらそれこそ…

「…あれ、見間違いよね?」

ベンチには小さな男の子、その頬には大きな痣・・・。

きっと私は疲れ過ぎている。

だとしてもこんな時間にベンチで寝そべる子供、それも小学生以下なんて・・・。

「んんっ・・・」

思わず近寄る。

「君?こんなところで寝ていて大丈夫?」

お母さんは?なんて聞けない。

こんな時間に家を飛び出す子供が育つ家など…私みたいなのが育つような家に決まってる。

少しは周りを見る余裕ができたと思う、自分だけしか目に入らないような年齢ではない。

でも、それでも目の前の子供一人も救えな。私はそんな大人になってしまったのだろうか。

「ねえ、もし行くところがないならお姉さんのところに来ない?」

本当なら警察に連れてって

後はよろしくでいい。

そんな冷たさが私を作った。

だから私は、この子を、救って見せるんだ。


「まずここから移動しようか?」

出来るだけ、やさしく語り掛ける。

すると少年はそっと私の袖をつまんだ。




しばらく無言でただ歩く。

大きな痣だ。

さすがに一緒に店に入るのは気が引けた。その事実が私を責めるが、それでも私は少年にこう尋ねた。

「家で待っててくれるかな…?」

「・・・うん」

彼はこくりとする。

「ちょっと狭いんだど、ごめんね?」

「・・・あいじょーぶ」

ごはんくらいは早く食べさせてあげたい。

私は駆ける。


流石に子供服だの食器だのには一晩で手が届かなかった。


…悪い癖だ。完全に疲れ切っているのに自分でやれもしない目標を作ってしまう。


明日が休日でなければこんなことはしなかったのか。いやきっと私は何度でも同じ過ちを繰り返すだろう。

過ちって言うの嫌だな。

猫背な歩みで、私はアパートへと戻った。

「ふふ、寝てる。」

さすがにこの時間だから寝てしまったのだろう。

よる、ねむくてねる。

そんなことも忘れていたとはね。

布団に横にしてやって毛布を掛ける。


電気を消してキッチンで私は、缶の封を切った。

「カシュ」


・・・朝が嫌だと思ったのはいつからか。

ガサッ、布のこすれる音が無音で膨らんだ部屋に響く。おびえて泣き出したりされると困るのだが。

「・・・?」

何も理解していないという顔。

いやこのくらいの子なら当たり前か。

「おはよう、君が公園で寝ていたから取りあえず連れてきちゃったというか保護したというか助けたというか取りあえず怪しいお姉さんじゃないし危害を加えたりしないから泣きさけんだら助けを求めたりされると困るなっていうかほら、パン。パンあるよ!?」

怪しいお姉さんランキング世界一位です。

どーも。

「ん?」かわいらしい声が漏れた。

何があったらこの子の顔に痣などつけるのだろうか。ま、人が怒りを覚えたとき何をするかなんて一番よくわからないことを一番よく知っている。


まずはこの子の世話をしないと。たとえ誘拐犯と呼ばれることになったしても、一度始めたのだから。

やめはしない。


「懺悔 悔恨 苦悩 辛い 辛い 嫌だ 逃げる」


嫌な頭痛がした。

食べている間に傷の手当てをしてしまおう。

「痛くない?」

聞く意味もないことだがそれでも確認せずにはいられない。

「あい・・・」

会話などなくてもいいけど、

この子の平穏な時間がもう少し続いてほしいなと思う。


外で遊びたい子供を引き留めるくらいなら私はこの子を拐わない。

「このテディーベアも持っていこうか」

この子の唯一の持ち物であるそれを持つと、ぎゅっと握りしめる。


外を歩くと声がする。当たり前。

でも、聞きたくない、どうしてそんなことを無駄な言葉をつぶやくのか。


「痛い 痛い 痛い 熱い 痛い」


伝わればいいのだ、いくら繕っても無駄だ。

「大丈夫?寒くない?」

「うん・・・」


「たの・・しい、ね?」


公園について時間をもて余した私に、彼は話しかけてくれた、

この私に。誘拐犯の私に。


【うれしかったさみしかったくるしかった】

【嬉しいは駄目 寂しくない 苦しくない】


そんな感情の爆発が、表れていくようで。

静かに涙を流してしまったのだった。

「なくの、だめ」

「…大丈夫だよ」

そのまま、私は帰路に着いた。

帰ったころにはネットで注文した食器や布団などが届いていたので助かった。

「これ、すき」

くまのかいてあるしょっきをだちながら笑った。

そして私は二人で散歩をしながら考えていたことを伝えた。

「ねえ、お姉さんとだけ使うお名前を考えたんだけど使ってくれる?」

「・・・いいよ」

「これからお姉さんは君のことを「くーくん」って呼ぶね。」

熊の人形だからくーくんとは、我ながら思いついた瞬間だけは天才かと思ったが。うん。

「おなか、すいちゃった」

「ご飯にしよっか」


くーくん。


そこからの毎日はとても楽しかった、歌を歌ったりふたりでおひるねしたり。

びっくりするくらいたのしくてぼく、

ずっと、ずーっとおねえさんといたいな…。


「…おはようくーくん。いっぱいねれ…あれ?」


「くーくん、どこ?!!」

いない、どこにもいない。


無駄に叫べど反応はない。目が回って…


それで・・・。


「ふああ、おねーさんどこ…?」

いない、どこにもいない。おねえさん!どこなの?いないよ~!

どこ?おそとかな?おそとかも!

いってみよう。


「うわ!?」

「キャアアアアーー!」

「おかあさんあのひとこわいよ」

「・・・あの、だいじょ」

だれかな?おねえさんしってるかな?

「あの!あの!おねえさんしりまちぇんか?!ねえ!」

「ヒイ!?」

「おかあさんこわいよおお」

おんなのこないてる、ないてるのだめ。

「ごめんなさい!ごめんなさいごめ…


あれ、ふらふらする・・・・。


「わかりますか?名前や最後の記憶を聞かせてください。もうすぐ救急車がつきます。」

誰もが一度は見たことある制服。

警察だ。まずい、非常にまずい。

今はくーくんを探さなきゃいけないのにこんなところで万が一捕まってしまったら・・・。

いや、私は捕まってもいい。警察の力を頼ろう。

そして…

「・・・じつは」


語る。


「ゆ、誘拐した少年がいなくなった・・・?」

「は、はい」

彼は鬼を纏う。

「それは、事実ですね?」

「そうです・・・」

「その子の特徴だけ聞かせていただいても」

「名前は、くーくんです。頬に大きな痣と熊の人形を持ってるはずです」

「少し失礼」

そう言って彼はどこかに連絡をし始めた。

安堵した、これであの子は救われる・・・。そっと、目を閉じた。


ある犯罪の容疑者だという患者、

警察の方々が病室に入っていった。


「先生、このカメラで取り調べを観察するってそんなことしていいんですか?」

看護師の花さんが僕に心配そうに聞いてくる。

「むしろこうでもしないと彼女がどうなってしまうかわからない」

「まあ、黙っている私も共犯なので安心してください。患者さんが、一番なので」

「そういう思想に狂信的なところ好きだよ。」

「しっ、始まりますよ」

 

「それでは高山さん、少しお話を聞かせてください」

「・・・だれそれ」

「な、なにをおっしゃっているのですか?」

「ぼくは「くーくん」だよ?おまわりさん!そうだおまわりさんにきけばよかったんだ!!!」


「ねえ、ぼくのおねえさんさがしてくれませんか!!」


僕は、カメラについたマイクに叫ぶ。

「・・・取り調べは中止だ」

「え?どこから声が!?」

「いいから取り調べを中止してくれ!!

これ以上患者に負担をかけるな!!壊れてします!!」

「わ、わかりました。今回はあくまで任意聴取ですので。主治医の判断でいったん中断します」

「ありがとう」


その数週間後警察から

「くーくんなどいなかった」という報告が来た。

「やはりか…」

「確か高山さんって・・・」

「そう、彼女は以前線路に飛び降りた際重い脳障害を起こしてしまったんだ。」

「怪我は完治して退院したのでは?」

「ちがうんだ、その後遺症により発生した精神障害によって今回の事件は起きたんだ

だから、彼女はどれだけ願っても少年には会えないんだよ、・・・」

「そんなのって・・・!」

「仕方ないんだ、仕方な・・・いわけないだろ!?僕は目の前の女性一人救えないだなんて」

「…先生、高山さんが希望していたものを支給するか迷ったのですが」

「それはなんだい…?」

「菓子パン、子供の生活用品そして」


「テディーベアだそうです」


「あはは!くーくんおいしい?わたしもたべるね!かわいいおさらだね。やっぱりわたしセンスいいなー!」

女性が立ち上がり向い側へ、そして無理やり子供用の小さな椅子に座ると。

「おいしいよおねえさん!」

その顔に浮かぶ笑みは純真無垢で、とてもいい笑顔だったとか———。


「ねぇ、先生、先生はもちろんそこにいますよね…?」

「さあ、どうなんだろうね……」


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