夏合宿 ③
昼食は流しそうめんだった。昼食前にあったテストの時間に先生達が準備をしたようだ。簡単な作りだったけどちゃんとそうめんが流れてくる。
テストが終わった後に約束した通り、絢達と一緒に食べている。片手につゆの入ったお椀を持ち、反対の手で箸を使って流れて来るそうめんを掴もうと待っている。
「こんな所で流しそうめんを食べるとは思わなかった」
「……本当だね」
絢がそうめんをツルツル美味しいそうに食べている。
「でもこれだけ人がいるとなかなかそうめんが流れてこないなぁ」
台の上に箸を立てて待っているが、水ばかり流れるだけで肝心なそうめんがなかなか流れてこない。
「場所が悪いんじゃないの?」
そうめんを食べながら白川が当たり前だと言わんばかりな顔をしている。俺が時間に遅れたので台の下流の方になってしまった。
絢達は見ての通り華奢で元々そんなに食べないのであまり流れて来なくても問題ないようだ。だけど俺はそうもいかない、そうめんにありつけなくてイラついていたが、顔には出ないように気を付けていた。
「上流の方に移動してみる?」
絢が俺の様子を見て心配そうな顔をしている。絢には分かってしまったようだ。絢の言う通りに移動しようにも上流の方は人が多いようで三人が入れる隙間がない。
「まだいいよ、遅れたのが悪いんだし……」
我慢して少し待てば人も減るだろうと上流の方を眺めていた。不意に手招きする女子の姿が見えたが、周りの人に囲まれて顔までよく分からなかった。
(でも待てよ、ここにいる絢達以外に俺の事を知っているのは……どうしよう……)
俺は困惑した顔で白川に助け舟を求めたが知らないと言わんばかりに無視されてしまった。
そうこうしていると俺を呼ぶ声が聞こえた。
「宮瀬く――ん! こっちにおいでよ――!」
(あぁ……呼ばれてしまった)
俺はガクッと項垂れて、絢の顔をちらっと見ると昨日のように不機嫌そうな表情をしていた。ここで無視をしても不自然だし、このまま絢を放置する訳にもいかないと思考をフル回転させた。
(もうこうなったら……)
半分ヤケクソ気味に不機嫌そうな顔をしていた絢の手を掴むと呼ばれた方向へ歩き始めた。絢は何が起こったのか分からない顔で手を引かれている。その様子を見ていたため息を吐いて白川も一緒について来る。
絢は何も言わずに俯いたままで顔を赤くしている。石川達は俺達が近づいて来たのに気が付き三人分のスペースを空けてくれた。
「ありがとう、これで少しは食べることが出来そうだよ」
「 良かったね……ところでこのお二人は?」
石川が不思議そうな顔をして絢と白川を見ている。絢はまだ赤い顔をしているが白川は普通に落ち着いている。
「え、えっと同じ学校でクラスメイトの笹野と白川だよ」
二人がペコッと会釈した。
「F中の石川です。よろしくね」
そう言って女子三人で何か話し始めた。俺はとりあえず空腹を満たそうと、あまり食べれなかった流しそうめんをがっつり食べようとした。何も考えないように一人でそうめんを食べていたら会話をしていた白川が隣にやって来て呆れたような笑いを浮かべている。
「宮瀬くん……なかなか思い切った事するね……」
「思い切ったことって……そんなことはないけどなぁ」
「はぁ、そういうところだよ……宮瀬くんらしいけどね」
シラを切る俺を見て白川は首を左右に振りながらお手上げのポーズをして、また石川達の会話の中に加わっていった。
気になったのでそうめんを食べながら三人が会話しているのを眺めていた。案外楽しそうで時折笑ったりもしている。初対面だったけど、絢は元々が積極的なタイプではないのだが、人当たりは良くて裏表もないのでそんなに心配はしていなかった。思ったよりも三人の会話が弾んでいたみたいなので何を話しているのか内容が気になった。
(意外と俺の事が話題だったりして……でも悪い意味で……)
一人でボケとツッコミをしていると絢が手招きをして呼んでくれた。俺が独りぼっちになっているのが、気になったのかもしれない。その後は皆んなでワイワイと話しながら食べて楽しい昼食の時間になった。
昼食後は夕方まで授業で午前中と同じ様に夕食前にテストがある。これだけ集中して勉強をすると受験生だなぁと今更ながら実感した。
授業の時に志望校の話題が出ていが、まだ絢には志望校を変更する事は伝えてはいない。しかし何処からか耳にしている可能性はある。でも今の段階では触れないようにしようとしていた。
(多分俺自身が不安なのかもしれない……)
表情には出さなかったが、早くこの話題が終わらないかと待っていた。
夕方、最後のテストの時間が終了して、回答用紙を提出してから後片付けをしていると片付けを終えた絢がやって来た。
「テストはどうだった?」
「う――ん、まあまあだったかな、昼からの長い授業と最後のテストで、とにかく疲れたよ」
「そうね、さすがに私も疲れた……」
絢の顔を見ると疲労感いっぱいの表情だったが、わざわざ俺の所に来たという事は何か用事があるのだろう。実際、何か言いたそうな雰囲気だったので、俺から話を振ることにした。
「それで……夕食も一緒に食べようって事かな?」
「う、うん。い、いいかな……」
「いいよ、また一緒に食べようか」
俺が大きく頷くとさっきまでの疲れていた絢の表情が一変して嬉しそうな表情をして顔を赤くしていた。
「今度は遅れないように行くから」
「うん、お願いね」
昼間は遅れたので今度は大丈夫だと手で合図して、絢は嬉しそうに頷き足早に出て行った。その姿を見て俺も遅れないように急いで片付けていたら、先生に呼び止められて準備を手伝って欲しいと頼まれた。頼まれたというより半強制だった。それもそのはずこれからバーベキューを始めるので大変な火の準備をしないといけない。それなりの人数がいるので、火の数も多めに準備しておかないといけないようだ。
準備の手伝に行く前に、絢に事の次第を話すと少し残念そうな顔をしていたが、「仕方ないね」と言ってくれてたので少し安心した。その後に「終わったら直ぐに来てね」とお願いされたので、「ごめんね、早く終わらせるから」と言って準備に向かった。
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