修学旅行 ⑤
四ヶ所目は大きな神社で祭りも有名な所だ。朱色の門から中に入り参拝をした。ここでも学校に帰ったら班毎に研修の発表をしないといけないのでその資料の為に写真を撮って廻っていた。
資料用の写真だけではなく、みんなの思い出用にもいろいろ撮影はしていた。基本撮る側なので俺の写真はあまり無いが、たまに健や博之が代わりに撮ってくれていた。班の全員で撮った時は、丁度そこに居合わせた他の班の人に撮影してもらった。神社を一通り見て周り最後のタワーに移動する為にバス停に移動した。
「宮瀬くん。今度は私が撮ってあげるわ」
バスを待つ間、隣に立っていた白川が話しかけてきた。
「どうしたの、何か撮りたいものがあるの?」
「別に無いけど、宮瀬くんが撮ってばかりだから思い出にね」
「ありがとう、それじゃ後でお願いするよ」
俺は笑顔でお礼を言った。
最後の目的地に到着した。天気が良かったのでここのタワーから市内が一望できる。エレベーターで展望室まで上がると窓の外には市内全体が見えていた。
「スゲ――な景色が」
健が嬉しそうに顔で真っ先に窓辺に向かって行った。その姿を見て微笑しながら全員窓辺に向かった。窓からの景色を眺めながら、今日一日見て廻った場所を探したりしていると、白川と笹野がやって来た。
「写真撮ってあげるわ」
「でも何か俺一人で撮るの寂しくない? 何かボッチみたいで……」
白川にデジカメを手渡したが、この景色をバックに一人で写るのは凄く虚しい感じがした。
「そうね……あっ、そうだ」
何か思いついたのか白川が笹野に話しかけて、笹野の顔がみるみる赤くなっていった。
俺は何を話したのかと思っていたら、白川が笹野のポンっと背中を押して俺の横に並ばせた。
突然の出来事で驚いて一瞬体が固まってしまった。
「二人で撮るよ! さあ、笑って。顔が緊張しているよ二人共、笑顔だよ!」
微笑みながら白川がデジカメを構えて撮影しようとしている。予想外の展開になり焦っていたが、今さら撮影を止める訳にもいかないし嫌がるのも変なので諦めて撮られる事にした。
出来るだけ意識しないように、自然な笑顔を作るように俺は努力した。
きっと笹野も焦っているに違いないが、白川がデジカメを構えているので様子を見る事は出来なかった。
「ハイ、いくよ!」
そう言って何枚か撮ったようだった。
俺と笹野は直ぐに白川の所に行きデジカメを確認した。二人とも思ったよりも自然な表情で撮れていたので、白川は自慢気な顔をしていた。
「どう、私の腕前は?」
「ありがとう。いい感じに撮れていたよ」
お礼を言って白川からデジカメを受け取った。隣にいた笹野が小声で話してかけてきた。
「よしくん、その写真、印刷したら私に一枚欲しいのだけど……」
笹野が話しかけてきた距離が意外と近かったので焦ってしまい顔が熱くなる。
「あ、あ、わ、分かったよ。帰ったら同じのを印刷しとくよ」
しどろもどろの返事になったが、安心して様子で笹野は嬉しそうに白川の所に戻って行った。
(今日一番で緊張した……これって白川の思惑通りなのか?)
「痛っ⁉︎」
いきなり目の前に現れた大仏が俺の頭を叩き、ため息を吐き苦笑いしていた。俺は大仏にひとこと言ってやろうとしたが、景色を見るのに飽きた様子で健達がこっちに来る姿が見えた。大仏も俺が何も仕返しをしないのを察した様子でそのまま知らん顔をして立っている。みんなが揃ったところで下に降りるて旅館に戻った。
修学旅行の最後の夜は、それなりに盛り上がったがさすがに昼間の研修で疲れてしまったのか意外と早く眠りについていた。
三日目の最終日は、寺院でお坊さんの説法を聞いてからその後は有名な大仏様を見学をした。昼食を食べてシカがたくさんいる公園で自由時間を過ごしてバスで新幹線の駅に到着した。
予定より早く着いたので、新幹線に乗るまでの間が自由時間になった。疲れた人は座って休んでいたが、俺は最後にお土産を見ようとお土産屋さんに行った。
(家族にもう一つぐらい買って帰るか)
店内のお土産を眺めていたら、そこに笹野と白川が買い物をしている姿を見つけた。
「家族に何かお土産でもと思って、二人は何かお土産でも買ったの?」
「そうなの、私達も最後にね」
白川が笑顔で答えて、一緒にいた笹野に何かを耳打ちして笹野は俺の側にやって来た。
「よしくん、あのね……」
「ど、どうしたの?」
恥ずかしそうに笹野が控えめな声で話しかけてきたので思わず俺は噛んでまった。
「あ、あのね、お揃いで何か買いたいんだけど……」
「えっ、こ、ここで……何かあるかな……」
周りを眺めてみるがお揃いで良さそうなものが見つからないので、無難なところでキーホルダーを探してみた。
「修学旅行の思い出になりそうなのは……」
二人で探していると笹野が何か良さそうなものを見つけたようだ。
「これは? でもよしくんが持つには恥ずかしかも……」
「いいよ、それで、絢がいいと思うなら……」
俺が持つには少し恥ずかしいかもしれないハートの形をしたものだったが、もう時間が無くなっていたので急いでレジーに並んだ。
「二人だけの秘密だよ」
会計が終わった後に笹野がそう言って白川と一緒に先にクラスの集合場所に向かった。俺は白川達と一緒にならないようなタイミングで集合場所に急いだ。
「お――い、遅いぞ」
「すまん、でも遅れてないだろ?」
博之に怒られたが集合時間に遅れた訳ではなかったが、すでにほとんどの班が揃っていた。予定時刻通り新幹線は発車して地元に帰る。
「終わってみたら何かあっと言う間だったな」
「ホントそうだな」
隣に座った健と話しをしていたが、お互い知らない間に寝てしまっていた。気が付いた時には到着する少し手前だった。こうして俺達の修学旅行は無事に終了したが、笹野との仲は少し進展したような思い出に残った修学旅行だった。
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