修学旅行 ③

 修学旅行の二日目、自主研修の日である。朝から夕方まで各班に分かれて予め自分達が考えたコースを回っていく。俺達の班も修学旅行前に俺と笹野と白川の三人で殆ど計画を立てて最終的には班全員で決定した。

 旅館前で出発時間前に集合して、先生からの注意事項の説明がある。


「おい、宮瀬、これって本当に全部まわれるの?」


 健が心配そうに尋ねてきたので、放課後に残って作った詳しい行程表を見せる。


「最初の辺りは時間に余裕があるけど、後半のこの辺りはあまり余裕がないから変更しないといけないかもしれない」


 行程表を健は見ながら頷いていた。


「しかしよく作ったな、こんなに詳しく……凄いな」

「今更感心するなよ、ちゃんと見てないのかよ。大変だったんだぞ作るのは……」

「マジで感謝するよ」

「でも作ったのは俺だけじゃなくて笹野と白川も一緒に作ってくれたのだから、ちゃんとお礼を言っとけよ」


 健は分かったと頷き、後で博之にも伝えると言っていた。もう少しで出発時間になるのだが一名まだ揃っていない。


「大仏のヤツは何処に行ったんだ、白川は知らないか?」

「私は大仏さんとは別の部屋だから、絢ちゃんも違うし……」


 白川も困った様子で隣の班の女子に大仏を知らないかと聞いている。やっと出発時間ギリギリになって慌てた様子で大仏が現れた。


「頼むよ大仏、時間だけはきちんと守ってくれよ」

「ご、ごめん、ちょっと準備が手間取ってね」


 バツが悪るそうに大仏は頭を下げて、白川や笹野にも謝っていた。


「頼むから迷子だけにはならないでくれよ……」


 勘弁してくれよと言わんばかりに俺が注意する。


「大丈夫よ、それは無いから」

「いやいや、大仏のその根拠の無い自信が怖いよ」


 呆れた感じで俺が言ったので大仏は機嫌を損ねていたようでムッとしていた。暫くして出発時間になり俺達の班は旅館を出た。

 始めに出発地点から一番離れた所に向かい、段々と元の場所に戻るような行程だ 最寄りの駅から電車で移動する。公共交通機関が良いので移動も時間さえ合えば待ち時間なしで移動が出来る。

 最初の移動の電車も予定通りに乗る事が出来た。乗客が多くて座る事が出来なかったが、三駅程の移動なのでそれほど苦痛になる距離てはない。


「宮瀬君、昨日の夜は寝る事が出来た?」


 隣に立っていた笹野が話しかけてきた。


「うん、意外と寝られたかな、でもなかなか寝付かない奴もいたみたいだけど」

「そう、私は話が盛り上がってなかなか寝られなかったんだよ、だから少し眠たいかな」

「えっ、話が盛り上がったということはあの事を誰かに話したの?」


 その盛り上がったという話の内容が気になり俺は尋ねたが、笹野は慌てた様子で答えた。


「話してないよ、そんな恥ずかしくて……それに約束したよね」

「そ、そうだ約束したんだ、疑ってごめんね」


 俺は慌てて謝ったが、笹野は昨日の事を思い出したのか顔を赤くしていた。


「そういえば……」


 俺は昨日の事で気になった事を思い出し尋ねてみた。


「あのアトラクションから出る時に確か、『よしくん』て言っていたよね……」


 赤くなっていた笹野の顔が更に赤くなったが何故か不安そうに俺に小声で尋ねてきた。


「そ、そ、そう言ったけど、もしかして怒った?」

「別に怒ってはいないさ、ただ久しぶりに家族以外にそう呼ばれたから……」

「そ、そうだったの……前はそう呼んでたのにね」


 笹野の意外な返事に照れくさそうに笑ったが、残念そうな表情を笹野がしていた。


「中学に入る前の事だろう、そう呼んでたのは」

「だってあの頃の事を少し思い出したから、つい言ってしまったの……ゴメンね」

「そんな謝らなくてもいいよ、別に嫌だった訳じゃないしただ驚いただけだから……」

「そ、そうなの……良かった」


 笹野は安心したようだったので、俺が照れ隠しでからかうように言ってみた。


「俺もあやちゃんて呼んだらいいのかな?」

「え、え、あ、えっ……」


 凄く慌てた素ぶりでみるみる笹野の顔が真っ赤になっていった。予想以上に恥ずかしそうにするので俺も恥ずかしくなり微妙な空気が流れる。


(よく考えれば後輩の子を下の名前で呼んでるのに、付き合いの長さからすると笹野の方が圧倒的に長い……やっぱり名前で呼んだ方がいいのかな?)


 お互い黙ったままで無言が続いていたけど笹野と俺が同じタイミングで話そうとして笹野が俺に遠慮する。


「あっ、宮瀬君が先でいいよ、何?」

「え、えっと、あやちゃんはちょっと恥ずかしいから絢って呼んでもいいかな……」

「あっ、あ、絢……私はいいけど、気にしなくても大丈夫だよ」


 また顔を赤くして笹野が俯きながら答えた。


(やっぱり名前の呼び方、恵里の事気にしていたのか)


「……うん、じゃあ、絢……」


 直ぐに『絢』と呼ぶと笹野は赤い顔をしたまま頷いたが、多分俺も赤い顔をしていたのだろう。隣に居た白川が困惑した表情で遠慮気味に話しかけてきた。


「取り込み中で悪いんだけど、もうすぐ駅に着くんだけど……大丈夫?」

「ご、ごめん、ありがとう助かったよ」


 そう言って急いで周りを見渡し健と博之の姿を見つけて、降りる合図を送って二人とも確認した。後は大仏だけとだと見渡すが発見出来ずに焦っていると、俺達の真後ろに立っていた。大仏と目が合うと何も言わなかったが、にやりと笑って頷いた。


(もしかしてコイツは全部聞いていたのか、周りには言いふらす様な事はしないと思うけど相変わらず気が抜けないな……)


 電車が駅に到着して、全員無事に降りる事が出来た。改札を出て最初の目的地に歩いて向かった。地図を見ながら五分程歩き目的地の城にほぼ予定通の時間で到着した。

 まだ午前中の早い時間帯だけど結構な観光客がいる。それぞれが逸れないように出来るだけまとまって行動しようと皆んなに声を掛けた。

 城の中を見学して周り写真を撮ったり、メモを取ったりして一ヶ所目が終了した。次はバスでの移動になるので近くのバス停に向かった。

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