練習試合
キャプテンを決めた日から数日後、顧問の先生から夏休み中に練習試合をする事を伝えられた。
新チームになってからの初めての対外試合になる。
夏休み中の練習は午前中の約三時間で、コート一面を使用することが出来るので普段の練習とは違って実践的な練習がメインになってくる。
それから日曜とお盆休みを除いて毎日練習を重ねてきた。これまでと違って皆サボったりすることもなかった。
そして夏休みも残すところあと十日になり、いよいよ練習試合の日がやってきた。
場所は俺達の学校で、後輩達が試合の準備をしている。
レギュラーの俺達は部室でユニホームを着替えていた。
「背番号はどうする?俺と田前は決まってるけど……」
キャプテンと副キャプテンの番号は代々決まっている。だから順司達はまだ番号を決めていなかった。
「ジャンケンで勝った順に決めていくか」
順司がそう言って他のメンバーも頷き、早速ジャンケンを始めた。結果、運が良かったのか希望の番号があったメンバーはその通りになり問題は起きなかった。試合前から険悪なムードにならなくて安心した。
その後、部室を出てウォーミングアップを始めた。同じタイミングで練習試合の相手校のF中も練習を始めた。
練習試合と言えども初戦なのでいつもとは違って緊張感みたいなものがあった。
開始直後はなかなかペースが掴めずにパスが回らずに、攻め込まれてばかりだったが辛うじて俺と三井のリバウンドで一方的に得点をとられることはなかった。緊張からなのか全体的にみんな動きが硬いような気がした。
第一Qが終わった時に得点は、十点差まで広がっていた。
第二Qに入って、順司からのパスが通るようになり展開が変わってきた。他のメンバーもやっと本来の動きになってきた。俺自身もリバウンドが好調でオフェンス、ディフェンス共にチームを支えていた。
時間を見るとあと残り一分を切っていたが、得点は二点差まで追い上げてボールがコートの外に出てマイボールになった。
ここで順司に合図を送り俺がゴール下に走り込みパスを待つ、パスを受けた順司がドリブルで相手を引きつけて、フリーになった俺に鋭いパスを入れてくる。パスを受けた俺は、シュートブロックにきたディフェンスをかわしてシュートが決まりここでブザーが鳴り第二Qが終了した。
「やっと追いついた」
俺は汗を拭きながら、息をきらせベンチに座って水分補給をする。隣には順司が頭からタオルを掛けて座っていた。
「よくあの場面で決めてくれたな、さすがキャプテンだ、ここで追いついて良かった」
「いや、順司のパスが良かったんだ、このままのペースで一気に逆転するぞ」
「そうだな、後半も頼むぞ」
やっと順司は息が落ち着いてきたみたいだ。俺も息が落ち着き、ふと周りを見渡すと予想外に観客が増えているのに少し驚いた。
「なんかギャラリーが増えたな……」
俺が呟くと順司も周りを見渡して、いきなり肘で脇腹を突いてきた。
「痛っ!」
「おい、あそこ見てみろよ!」
「どこだよ?」
急に順司の口調が変わり、言われた方向を向いた。その方向には女子の四人組がゴール側のコート右隅に居た。何か楽しそうに会話をしてこちらの方を見ているようだ。
「いつから居たんだろう……」
少し驚いた声で反応してしまい俺は恥ずかしくなる。何故なら、その四人組の中に気になる彼女がいたからだ。
順司とは一年から同じクラスだったのでそのあたりの事情はよく知っている。
「宮瀬にもっとボール集めてやろうか、かっこいいとこ見せておく?」
からかい半分で順司が笑っている。
「マジでそれはカンベンして、もしそれで失敗を繰り返したらシャレにならん……」
「ハハハ、冗談だよ、せっかく追いついたんだ、マジで勝ちにいくから心配するなよ、でも頼りにしてるからなキャプテン」
「おぅ、任せてくれ! 絶対勝つぞ!」
最後はちゃんと気合を入れて後半に臨んだ。
第三Qは、前半の勢いをそのままにこちらのペースで試合が進んでいった。順司のパス回しも好調で次々と得点につながり、ここにきて慎吾のスリーポイントが好調になり得点を重ねていく。
それにつられるようにディフェンスも良くなり無駄なファールがなくリバウンドを支配出来て段々と得点差が開いてきた。
第四Qはさすがに疲労感が出てきてなかなか得点が決まらなくなってきた。さすがにチーム全体のスピードが落ちて速攻も使えなくなってきた。しかし相手チームも同様に疲労してきている。
両チーム共に膠着状態で時間が過ぎていき、残り三十秒の声がベンチから聞こえてきた。時間はもうないのでこのワンプレーで終わりだ。自陣からマイボールで順司がドリブルで仕掛け、三井がハイポストに入り順司からのパスが通る。
そこに俺が走り込みパスをもらうと相手ディフェンスにフェイクを使いシュートを放ちキレイにゴールが決まる。そのまま試合終了のホイッスルが鳴った。
思わず俺はガッツポーズが出る。チームメイトも皆各自喜んでいる。
「やったなぁ、初勝利!」
「まぁ、練習試合だけどな」
興奮している俺とは対照的に順司は少し冷静な反応だったけど笑顔だ。
「でも勝てたのは嬉しいな」
お互いガッチリと握手して、試合終了の挨拶をした。
一通り終了後の挨拶が終わり、コートの外を見てみると、まだあの四人組が残っている。結局、最後まで試合を見ていたようで少し興奮気味な感じで話をしているようだ。
俺がべンチに戻る前に四人組の中の一人と目が合い手を振ってくれた。手を振ってくれたのは、気になる彼女で少し恥ずかしかったが、勝った高揚感で思わずガッツポーズでその彼女に合図を送った。
しかしチームメイトは疲労と勝利の興奮で誰も気がつくことはなかったので少し安心した。
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