壊滅的治癒

@zaamx

第1話 魂は腐臭を放つ

「あなたの魂は既に腐っています」と医師が私に云った。

医師は至って真面目な表情だった。ぼそりとつぶやくように云った。

私は驚きもせずに、そうですか、と云った。それは理解していたことだ。


それからしばらくお互いに黙っていた。


「こういう時、患者さんが私に云ってくることは決まってるんですよね」

と医師は云った。


「それはなんですか?」

と私は云った。


「まず第一に、『これからどうすれば良いんですか?』です」


「それはそうですよね」

と私は云った。


「もちろんその質問に答えることはとても難しいことですし、すぐには答えず私は黙っているんです。そうすると次の質問が来ます。それは何かわかりますか?」


「それは、『どうしてこんなことになったのですか?』でしょう?」


「そのとおりです」

医師は軽く首を縦に振りながらそう云った。


*

ある時、私はふと、自分の心臓からとんでもない腐臭がすることに気づいた。

真夏のエアコンをつけ忘れた部屋に生肉を放置してしまった臭いというべきか、溝に捨てられた野犬のような臭いというか、とにかく強烈な悪臭だった。


その激臭の瞬間、私はセックスをしていた。男の陰部は私の中に入っていた。

私はたまらずに男の顔に向かって吐いた。私は上の方にいた。男の顔に吐瀉物がかかった。吐瀉物は臭かったけれど、それよりも私の心臓から漂う悪臭の方がとても耐えられなかった。


私は吐瀉物がかかりっぱなしの男を放置して、吐瀉物が自分にかからないようにうまく逃れて、服を着るとすぐに男の家を出た。男は何か唸り声を上げていた。


腐臭はそこからずっと続いた。あまりの臭さで、私は仕事にも集中できず、夜の眠りも浅くなっていった。一ヶ月ほど経っても良くならず、いろんな精神科を転々とするうちに、この心療内科を見つけた。

*


「どうしていきたいんですか?」

と医師は云った。


「腐臭を止めたいです」

と私は云った。


「それは大変ですねえ」

と医師は云った。心からそう思っているみたいだった。


「大変というのはどういうことですか?」


「ものはなんで腐ると思いますか?」

と医師は云った。私はしばらく黙る。


「死んだからです」

と医師は云った。


「腐るというのは、死んだ後の過程なのです。あなたの心はすでに死を迎えたあとだということです」


「私の心は死んでいるということですか?」


「あなたのが死んでしまい、今はすでに腐敗の過程にあるということです」


「もう生き返らないということですか?」


「もちろん死んだものは生き返りません」


「ではどうすればいいのですか?」


「どうしようもありません。過程を見守るほかありませんよ」

と医師は淡々と答えた。


「時間差があったのですね。死んだ瞬間は今よりも結構前ではないですか?しばらくたって、そして腐臭で気づいたのではないですか。死んですぐ腐るわけではないし、物によっては熟れたり、熟成しますからね。人は熟れているとき、少しモテはじめたりするのです。でも、その時はもう死んだ後だし、腐っているのです」


私は少し考えて、「どうしてこんなことになったのですか?」と医師に云った。

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