第94話 いまさらに宇宙の無限や枯木山
――やっぱり潮時だったよね。
エミカはごく短く思いました。
押す方VS押される方。冗長VS簡潔。感情的VS論理的。即物的VS芸術的。( ;∀;)
いつかはと思いながらも、最終的な決断をくだすのが面倒で、事が起こるつど、まあいいかとやり過ごして来て、ときどき、さすがにもう限界だとフェードアウトしかけると、土砂降りの雨のような長舌にうんざりしてそのままになり……そんな関係を長年続けて来ましたが、今日という今日はとことん思い知らされたのです。
🎹
カルチャーセンターのジャズヴォーカルの講師VS伴奏のピアニストという立場には、なかなかしんどいものがあり、ミュージシャンとして対等であるべきところ、エリカの場合、性格的に押され気味なので、いつだって言い募られる一方で……。
今日は16分音符のリズムのとり方について、生徒さんたちが帰ったあとの教室で長々と説教されたのですが、音楽観の根本的な違いなので、こればかりはエリカも譲れず……そして、ついに告げたのです「今日で最後にさせてください」。(-“-)
☀
例によって自分は間違っていないという絶対的な大前提のうえで、くどくどしい言い訳やら詫びだか脅しだかわからない文言やらを並べ立てながら、どうせ今回も大丈夫と余裕の笑みを浮かべているヴォーカリストに一礼して外へ出ると、ビルの間の四角い空には一片の雲もなく、エリカの決断を応援してくれているみたいで。
車で郊外に走り出ると、見渡す限り枯れた風景の上に、何ものにも縛られない真っ青な空が広がっており、エリカは初めて頬が濡れていることに気づきました。
この業界で食べてゆく以上、日常的な葛藤は我慢しなければいけないと思いこんでいたけれど、そして、狭い業界に今日の一件はたちまちのうちに知れ渡るだろうけれど、失うものと得るものはいつも背中合わせ、汚辱まみれの屈辱に堪えて来た12年の歳月からの解放は、新たなスタートの起点になるやもしれず。\(^o^)/
自宅で開いている中高年を対象にした音楽教室が好評で、各界に人脈がある生徒さんたちの応援を得て、ピアニストとしての活動の幅が広がりつつあるエリカは、フロントガラスの枯木山に向かい、「よしっ!!」思いきりの気合を入れました。
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