第62話 巌の上に雀ふたつや水の秋
――それにしても、この店もずいぶん様変わりしたもんだよなあ。
注文したパスタを待ちながら、トモキはそれとなく店内を観察してみました。
皇室の宿を誇りとする観光地のホテル直営のレストランは、以前はちょっと敷居が高い感じの店で、店長もスタッフも客商売とは思えない腰の高さだったのです。
それがいまはどうでしょう、タカピーな接客モードが一変して丁重になり、中央にでんと設置されていた大テーブルの代わりに2人席が店の大半を占めています。
ランチの時間帯もあるのか、飲食時以外は律儀にマスクをしている客の多くが堂々たるお一人さまです。以前はけっこう邪険に扱われた記憶がありますが……。
🍴
トモキが案内された席は明るい東側で、大きなガラス窓の向こうに池があり、20匹ほどの錦鯉が勢いよく泳いだり、藻のかげに入って休んだりしています。
なかに2匹、金色がまばゆい大きな鯉がいて、池の主のように悠然と辺りを睥睨しながら泳いでいますが、その姿が時代遅れの中小企業主みたいに滑稽で……。
水面の反射に疲れた視線を上部に転じると、大きな巌の上の小さな窪みで、雀が2羽、秋の穏やかな日差しのもと、わずかな砂を浴びながら無心に遊んでいます。
――なにか対照的な……。
トモキは思わず身につまされました。
🌞
ペーパーレスの波に抗しきれず、わずかな社員からも隙間産業と自嘲されていた小さな印刷会社を畳んだのは、3年前のちょうどいまごろのことでしたが、まさか新型コロナの流行で、もっときびしい時代が到来するとは思いもしませんでした。
もしあのとき決断していなかったら……と思うと、なんとかギリギリやっていかれるつましいフリーランスの暮らしに、あらためて感謝の念が湧いてくるのです。
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