第42話 秋めくや眼鏡外せば別の顔



 

 

 ヒナコは全国チェーンのファミレスの店長。

 花のン十歳、シングル、パートナー募集中。


 男性店長の後任で横浜店から移動して来た当初は、スタッフにも常連客にも馴染んでもらえず、ちょっと苦労もしましたが、持ち前の明るさが幸いしてか、現在は30数年前の開店当初から店長だったような余裕で店内を取り仕切っています。


 ことに昨今はコロナの感染予防策に気が抜けず、当店から絶対に感染者を出してはいけないという本部の指示で、消毒液やパーテーションの設置、客の交替時には素早くテーブル周辺を消毒するなど、気苦労と作業が大幅に増えましたが、せめてマスクの上のチャーミングな(?)目を駆使し、笑顔の接客を心がけています。


 そのおかげか、平日もランチの時間帯や週末は順番待ちも珍しくありませんが、そこはそれ、自分と釣り合いの取れそうな男性客はばっちり見逃しません。(笑)


 

 

                ☕

 

 


 じつは常連さんに、四十年輩の黒ぶちメガネ、ちょっと気になる男性がいます。

 いつも文庫本を持参してひとりでお見えになるお客さまで、寡黙で礼儀正しく、ドリンクバーをやたらにお代わりするような輩とは真逆の、紳士的なお方です。


 あるとき、接客中に、その常連さんがメガネを外す場面に遭遇したヒナコは、

 

 ――まあ、すてき!

 

 どきんと胸を高鳴らせました。

 メガネを掛けているときより、目が六割方小さく見えます。

 こう見えて、ヒナコ店長は、しょうゆ顔がタイプなのです。


 パートナーはいらっしゃるのかしら? いつもおひとりさまだから、いらっしゃらないんじゃないの? でも、あたしなんか、お好みではないかもしれないし。


 社交的でポジティブなヒナコ店長にしては珍しく、うじうじもじもじ考えあぐね、用事もないのに、その常連客の横を何度も通ってみたりなんかしています。


 

 

               💛

 


 

 で、いきなりですが、その後、ですか?

 さあてね。

 翌秋、つぎの店長が湘南支店から着任したとき、その男性は常連としてカウントされていなかったそうですから、もしかしたら、もしかしたりしちゃって。(^^♪

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