第5話 向日葵編 元気なお父さんとそっくりな姉

病院に入ると大きな向日葵の絵が飾ってあった。3年前に母さんがかいた作品だった。確か値段は普通に3桁はくだらないものだったと思う。病院の名前にもぴったりの作品だった。最上階の4階の医院長室に案内してもらい、慎重に扉を開けなが中に入っていく。


「おお!!会いたかったよ!!君か!!佐々木さんの家の子は!!」


「はい。寛と言います。」


「おお!!そうかそうか!!さあ緊張しないでここでくつろいでくれ。」


「はあ、失礼します。」


と、医院長室にあるいかにもたかそうなソファーに座る。


「おーい。コーヒーを用意してくれ。早急にだ!!」


「あ、いえ今日は挨拶をしに来ただけですし、何より結さん待たせてしまいますし。開店まで時間が、、、」


「いいのいいの気にしないで。そこらへんはあの子も理解してここに来させてるはずだから。それに開店したばかりじゃ客もあまり来ないだろうし。そうだ!結の姉も紹介しよう!おーい。真由を読んでくれ。」


「わかりました。コーヒーにはミルクとかいりますか?」


「あ、、、いや入れないです。」


圧倒される勢いで勝手に話が進んでいく。親子なのに全く似てないな。まあここまで話す人が親だったら静かになるしかないか。饒舌な親を持つと子供は無口になるって聞いたことあるしな。家の中でうるさいのが2人以上いるとやかましくてたまらないからな。と思っていると、


「コーヒーの準備ができました。」


「ありがとう。ここに置いてくれ。」


「ごちそうになります。」


猫舌の自分はフゥフゥと両手でコップを持ちながら必死にコーヒーを冷ました。

「あら可愛い飲み方するのね。」


お父さんの秘書の方に言われた。恥ずかしい。子供の頃からの癖なのでもう治ることはないだろう。


「いいことだよ。熱いものを暑いまま飲んでしまうと食道癌になるリスクが増えるからね。君にはその命大事にしてもらいたいから。」


少し雰囲気が変わった様子で自分に話しかけてきた。母から色々と聞いていたらしいが、まあ、減るものでもないしいいのだが、気を使われるのは癪に触る。


「真由さんがきましたよ。」


「失礼します。真由です。入ります。」


「おおー入れ入れ。じゃあ真由にもコーヒーを。」


「了解しました。真由さんは確か砂糖とミルクも必要でしたよね?」


「はい。よろしくお願いします。」


「では、改めて長女の真由だ。ここで産婦人科として働いている。真由も、こちらが佐々木さん家の寛くんだ。今日オープンの結の店で働くことになっている。」


「そうなんですか、、、よろしくお願いします。」


「あ、こちらこそお願いします。」


お姉さんはあまり自分を歓迎しているようには見えなかった。そもそも人付き合いが苦手なタイプだったのかもしれなかったが、どこか冷めた目で自分を見てきた。目の前にいるやつなんかよりもっと別の誰かを見ているようだった。


「挨拶も済んだので、すぐに診療に戻ります。失礼します。」


そういってお姉さんは出て行った。この姉妹は・・・


「すまんなぁ。どうもうちの姉妹は人見知りが激しいらしくてなぁ。早くに母親を亡くしているからかもしれない。真由に関してはあまり手のかからない子だったし、結のことしっかりと面倒を見てくれる優しいお姉ちゃんだったけどね。まっまぁ、暗い話は置いておいて、今日から結のことよろしく頼むよ。あの子はああ見えても優しい子なんだ。」


「はあ、そうなんですか。」


「君から見てどうだいあの子は?お母さんから君は人を見る目があると聞いていてね。人をみすぎて人間不信なところが惜しいところらしいけど。」


余計なことまで言ってしまうのが母の悪いところだ。人を見る目があるとだけ言えばいいものを、短所まで言ってしまう。母らしいと言ったら母らしい。正直嘘をつくのは得意だがお父さんは自分にはいい印象があるっぽいので正直に話した方が今後の関係性で役に立つかもれない。変に嘘をつく方が後々めんどくさそうだ。


「そうですね。正直ここまでの印象はあまりよくはないです。」


「おう、、、実の親を目の前にして結構なこと言うじゃないか。」


「いいえ、下手に嘘ついてもいいことはないかと思いまして。」


「そうか。なら続けてくれ。」


「人見知りもかなり激しいですし、態度はそっけないです。質問しても一言しか帰ってきません。本当に接客業をしようとしている人なのかなって思いました。それと、」


「も、もういいよ、、、いいところはなかったのかな?」


「もちろんありましたよ。少しばかりの気遣いも見えました。特に結さんは見えないところでの努力があるんだと思います。努力を人に見せたくないといいますか。開店にあたっての準備は何も店頭のセッティングだけではありませんし、様々な書類の準備は全て自分でやってたみたいですしね。」


「そうかそうか。」


お父さんの顔がかなり満足げだった。ニヤニヤしてる。


「何より結さん綺麗ですし。」


「あれ?寛くんもしかして結のこと狙ってる?」


「そんなわけないじゃないですか。それに自分には、、、」


「そうなんだよね。まあ寛くんがいいならいいんだけどね。」


「どこの馬の骨かわからない人間に可愛い娘やってもいいんですか?しかも結さんの気持ちも聞かなくても。」


「いいのいいの。多分君は結が好きなタイプの人間だから。君を採用したのもその証拠だよ。男の人となんか話しているところを私は見たことないし、色恋沙汰の噂も聞いたことないしね。どこの馬の骨かは、君のお母さんからいろいろ相談を受けていたから分かっているつもりだよ。お父さんとも仲がいいから君なら任せられると思ったんだけど、君には君の事情があるからねぇ。」


そんな話をしていると、結さんから連絡が来た。


『お父さんに捕まっているみたいだね。

帰ってくるついでに病院内での放送かけて。

よろしく。』


『わかりました。営業時間と場所だけでいいですよね?』


『いいよ。』


『了解です。』


頻繁に連絡が来るわけではないが、ちょくちょく連絡が来るようになった。こっちから連絡することはまずないが、自分のスマホに通知が来ことがあまりないので少し嬉しい。業務連絡ばかりだが。


連絡先は100人以上持ってはいるのだが中学高校大学の友達とは連絡を取ることはない。もともと人付き合いがいい方ではないし、大学時代もレポートの期限や、提出物の内容など業務連絡でしか使っていなかった。今もあまり変わってはいないのだがスマホゲーム以外でスマホを開く理由があることが嬉しかった。


「結からかい?」


「そうです。病院内で花屋の宣伝をしてほしいと言われまして。放送してもよろしいでしょうか?」


「そうかそれなら、うちの秘書に頼もう!!君とはもっと話したい!!おーい!!館内放送で花屋のこと宣伝してくれ!!」


「はぁーい。」


扉の奥から声がする。まぁなんとかなりそうだ。とは言ったものの、いい加減戻らなければならない時間にはなっている。


「しかし、もうそろそろ戻らなければいけないので失礼しようと思います。話はまた今度でお願いします。結さんも交えてお話ししましょう。」


「そうか。仕方ないかな。残念だがまた今度、時間のあるときにでも色々話させてくれ。君には色々と期待してるから。君に頼みたいことが色々あってね。面白い発想を持っていて、なおかつ、人を見る目もある。負担をかけることもあるかもしれないが結のことよろしく頼むよ。」


「はい。こちらこそ全力を尽くします。よろしくお願いします。」


頼みたいことがある、というのが引っかかったのだが、教えてもらえそうもなかったので聞くのは今度にしよう。何より時間がない。開店してから1時間も結さん一人に任せてしまっている。はやく戻ってこいとかの連絡がない分、後で何言われるかわからない。急がなければ。


『皆さーん!!今日から医院長の娘さんのお花屋さんがオープンしまーす!!是非足を運んでみてくださーい!』


随分と明るい告知だった。あの秘書の方、かなり明るくて有名らしい。医者で秘書をつけるのはなかなか珍しいらしいがそれほどお父さんは忙しい人なんだろう。一緒に仕事していて楽しそうではあるがしんどそうでもある。二人の性格だからこその相性があるのだろう。てか、今の放送の内容には頼まれていた営業時間、場所が含まれてはいなかった。確かにこういうことを言って欲しいとは言っていなかった。まあ、場所は病院内の駐車場の一角だし、営業時間は来ればわかる。問題はないだろう。結さんに今戻ることを連絡しよう。


『今から戻ります。館内放送は秘書の方がしてくれました。』


『そう。まだ人来てないからゆっくりしてればよかったのに。』


『お父さんなにか話したいことがあるって聞いてたから。』


『それはまた今度、ということになりました。』


メッセージを送っているともうすでに花屋付近についていた。


「遅くなってすいません。」


「別に。人来なかったからいいよ。」


そう言いながら、レジ横で本を読んでいた。この風景も見慣れてきた。絵になる。最初に会った時は殺風景だったが、今は花に囲まれているため、絵画のようだった。

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