第4話 向日葵編 初出勤と向日葵の意味

翌日、少しの緊張感を持ちながら、店に向かう。朝食もしっかり食べたし、睡眠もしっかりとった。トイレも済ませ、コーヒーと栄養剤も飲んできた。何かが始まるのはいつも緊張する。緊張しいの自分を落ち着かせるため、8時半には家を出た。季節的なものもあり桜が咲いている。桜の好きな日本人は多いだろう。自分もそのうちの一人だ。かわいい花の割にどことなく色気がある。幼い顔なのに特殊な性癖がある子みたいだ。いわゆるギャップ萌えというやつだろう。今年は4月に雪が降るなどして、開花がかなり遅れた。今朝のニュースでは例年より1週間ほど遅れているらしい。異常気象だと騒ぐ人もいるが自分的には大した問題ではないと思ってしまっているところもある。気候の変動なんか長い歴史上何度もあっただろう。その時代に生きているだけ、それだけのこと。人間の進化も自然の一部なら、科学の発展も自然なことなのだろう。自然についていけていけない生物が絶滅していく。少し冷めた残酷な考えだろう。命を軽視するわけじゃないが、生きている以上仕方ないことだと思う。こんなことを考えながらゆっくり通勤路を歩く。


店に着き、結さんから制服を受け取り、店の奥で着替える。店名はHearing of flowers。日本語で「治癒の花」という意味だ。病院の敷地内にあるのだからこういった名前になるのだろう。お父さんの患者さんのお見舞いに来る人が花を買うための店らしい。別に外部からのお客様を拒否するわけではないがそこまで多くの人が利用するわけではないだろう。花の種類も豊富で、いろいろなニーズに応えられるようになっている。季節問わず好きな花を買えるように造花も用意してある。しかし、この花屋には決定的に足りないものがある。人手もそうなのだがある花が置いていない。


「あのー、なんでここまで種類が豊富なのに、向日葵だけないんですか?」


向日葵といえば誰でも知っていて、花の特集を組んだ雑誌などで好きな花ランキングの中の上位にありそうな花だ。いわば花界のヒットメーカーのような花なのにそれがない。収益になりそうなのに。


結さんは難しそうな顔の後、ため息をつきながら、


「私あの花嫌いなの。昔の自分を見てるみたいで。向日葵の花言葉って知ってる?」


「確か憧れでしたっけ?」


「そう。正解。向日葵は太陽に憧れた花なの。姿形を似せて、蕾の時には太陽を追うように首を振って、自分は太陽にはなれないと悟ったように花をさかせ、太陽を見ることも諦める。そんな花なの。憧れから逃げた花の花言葉が憧れってなんか滑稽じゃない?」


「そうなんですか。」


結さんは思ったよりも饒舌に話した。まだ色々と聞きたいこと、引っかかっているところはあったのだがあまり深く踏み込むと怒られそうなのでやめた。ていうか目の前にある病院の名前がひまわり総合病院なのだが・・・


開店準備が終わり、いよいよオープンと行きたいところだが、ひとまず病院の医院長である結さんのお父さんにあいさつに行くことにした。結さんはもう挨拶は済ませたらしいので一人で行くことにした。初めて会うので緊張する。一応お得意様?の大ボスにあたる人だ。親族の人、母の顧客とはいえ失礼のないようにしなければ。母の評判も下げかねない。ここで自分に悪い評判がついたら色々と困る。ここで少しだけやった就活の経験が活きてくるのだろう。就活生に戻った気持ちで行かねば。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る