第2話 向日葵編 雇用の真実

病院についてみると病院の敷地内にいかにも開店準備をしているような感じにダンボールが並んでいるところがあった。駐車場の一部を改装して建てたような感じだった。


「すいません。母からの紹介で手伝いに来ました渡邉寛と言います。どなたかいらっしゃいませんか?」


店内に入ると、1人カウンターのようなところに座って本を読んでいる女性がいた。

綺麗な人だ。本を持った長い指、耳にかけた長く綺麗な髪の毛、眼鏡をかけていたが横からでも見てわかる大きい眼。


「すいません。手伝いに来ました。渡邉寛と言います。日向結さん(ひゅうがゆい)ですか?」


「うん。よろしく。」


返事はそっけない。心配していた怖い人ではなさそうだが少し面倒な人かも。


「さっそくで悪いけど、外にあるダンボール中に入れてくれる?荷物はそこらへんに適当に置いていいから。」


「わかりました。」


外にあるダンボールは確かに女性が持つには少し重いくらいだった。自分が外のダンボールを中に入れている間も結さんは本を読んでいた。他にもすることもあるとは思うのだが何もしようとしない。すると結さんが口を開いた。


「1週間後に間に合うようにしてね。開店するのが4月の頭だから重いものは任せるからわからないところがあったら言って。」


そういうと本を置いて、ダンボールの中の荷物を整理し始めた。座っていてわからなかったが、結さんかなり身長が高い。モデル体型というべきか。身長180センチの自分でも高いヒールを履かれたらほぼ変わらない身長になってしまうかもしれない。華奢な人にはやはりこの荷物は重いのだろうか。5キロくらいの土を持ち上げようとしているが全く上がっていない。


「自分が運ぶのでどこに置くのか指示してください。」


「ならこっちに置いて。」


指示通りに5キロくらいの土の塊を8袋運んだところでまた別の作業に。


開店準備はかなり力のいる仕事が多い。大きなものは運んできてくれた業者さんがやってくれてはいるのだが、その他にも重いものが多数。確かに結さん1人では不可能なものもある。自分以外の手も借りたいところだがこの時期は誰も忙しい。どこも新しく、変化する時期だ。暇なのは自分くらいだろう。


午後5時。春先だとこの時間は真っ暗だ。どうやら今日はここで終わりのようだ。

「ありがと。助かった。明日からよろしく。」


「お疲れ様でした。あと1週間ですけど頑張ります。」


「何言ってるの?お母さんから聞いいてない?」


「え?何をですか?」


「今日から寛くんはここで正社員として働くことになってるんだけど。」


母さんから聞いていたのは確か準備の手伝いだけ。ここで働けなんて聞いてもいない。


「一応お母さんからはオッケーもらってはいたんだけど迷惑だったかな?」


「いえ、別に迷惑というのではなくていきなりのことだったのでびっくりして。」


別に嫌ではないのだが母さんには説明はして欲しかった。


「そっか。なら開店までの1週間のうちに答え出して。」


「わかりました。考えておきます。」


この日はそう言って家路に着いた。家に帰った後に母さんに対して何も聞いていないと抗議したのだが「良かったじゃない」と言うことで簡単に流されてしまった。母さんから話を聞いて結さんのことがなんとくなくわかってきた。どうやら、年齢は自分より一つ上の23歳。隣の大病院の医院長の娘で二人姉妹の妹。お母さんが幼い頃に亡くなっており、父子家庭で育った。まあいいところのお嬢様である。そのお父さんの敬意で土地の一部をもらい、専門学校卒業後、花屋を開くことになったらしい。お父さんが母の絵のファンで、その病院には母さんの絵が多く飾られている。お父さんの紹介で自分のことを知り、人見知りの性格から知らない人を雇うよりしっている人の家の人の方がいいと言うことで自分に白羽の矢がたったらしい。

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