第2話

「田中さんから引き継いだファイルに前回の見積書があるはずよ。とりあえず、それに目を通しておいて。あとで、資料を持って行くから」


 そう話している間も椿咲課長のキーボードを打つ手は止まらない。いつものことだが、この人の頭の中はいったいどういう仕組みになっているのだ? 密かに事務所ではデュアルコアと呼ばれている。優秀なのは認めるが、人の目を見て話してほしいと内心思う。


 しかし、俺にもプライドがある。

 

「いえ、とりあえずできる所まで自分で進めます。後ほどチェックしていただけますか」


 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


はぁ~。疲れた。


 結局あれから、見積書やスケジュールの作成で残業になってしまった。帰宅したのは、十一時。明日も会社だから、さっさと寝なければ、と思いつつ、いつもの癖でパソコンの電源をつける。


 俺の趣味はゲームである。一般的なテレビゲームもするが、ネット上に転がっているいわゆるフリーゲームを愛している。昔は自分で作成していたほどだ。素人ならではの荒々しさが逆に面白い。発想も自由で、ジャンルも多岐に亘り、作者の夢がたくさん詰まっている感じがして好きだ。


 イラストがすごく綺麗で、期待して始めると五分で終わってしまったり、ただのドット絵が動き回るだけの単純なつくりと思ったら仕掛けが妙に凝っていたり……完成の程度は様々だ。実際にプレイしてみないと分からないので、宝探しでもしているような楽しみを味わえる。


 昨日、ダウンロードしたゲームに少しでも良いから手をつけておきたかった。ソフトを起動する。レトロな音楽が流れゲームタイトルが表示される。起動に問題はないようだ。


 世界を滅ぼそうとする魔王を倒すために、冒険に出る。もはや使い古されて説明もいらないような、いたって普通のオープニングストーリーが流れた。逆にこういった懐古趣味は好印象だ。ストーリーのインパクトではなく、ゲームそのものに力を入れていることが期待できる。


「はじまりの町」で町の長老に次なる目的地と指令を与えられる。RPGのスタートとしては、やはりこれもお決まりのイベントだ。


「カナール町へ行くのじゃ。そこでハヤシという男に会え」


 ハヤシ……?

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