第2話言い訳

「公子殿下、これも殿下が悪いので、我ら代々使える家臣よりも、平民ごときを優遇したの殿下が悪いのです」


 集まった大公家譜代の家臣どもが、自分自身に言い訳をしている。

 俺が平民を優遇したと言っているが、真実は大公家や王家の法を超える重税を課し、私腹を肥やしていたのを罰しただけだ。

 それを誤魔化すのに、平民優遇を言い立てているだけの、無法者に過ぎない。

 だが、引かれ者の小唄になるのは嫌なので、蔑みの視線を送るだけでいい。

 心ある者はそれだけでいたたまれなくなるし、無法者には何を言っても無駄だ。


「さあ、殿下、自分の非を認められるのなら、自ら奈落に飛び込んでください。

 それが殿下が優遇された平民のためでもあります」


 俺を攻撃しようとすれば、今は亡き母上がかけてくださった守護魔法が発動し、俺を襲おうとした者たちを皆殺しにする。

 大魔法使いと称された母上の、命をかけた大魔法で、その威力は激烈だ。

 母上亡きあとも、父や愛人は繰り返し俺を殺そうとしたが、その度に実行犯は守りの魔法で無残な死を迎えた。


 その事を知っている大公家の者たちは、俺を攻撃するどころか、一定の距離から近寄ろうとしない、それほど母上の護り魔法は恐れられている。

 だが長年かけて、こいつらは母上の守護魔法を討ち破る方法を考え付きやがった。

 その方法とは、俺の心を攻撃する方法で、俺自身が自殺すればいいと考えたのだ。

 

 具体的な方法は、何の罪もない領民を集めて、その者たちを殺すとか拷問にかけると言って、俺を脅して自殺させる方法だ。

 腐れ外道のこいつらが考えたに相応しい、嫌になるほど下劣なやり方だ。

 まあ、防ぐ方法がないわけではない。

 俺自身がこいつらの方に突っ込んでいって、嫌でも攻撃しなければいけなくすれば、俺の攻撃と母上の守護魔法の二つで攻撃できる。


 だがその方法だと、完全に人質の人達を助ける事は不可能だ。

 余りにも多い人質が、無数の敵に確保されていると、敵を皆殺しにする前に、幾人かの人質が殺されてしまうのだ。

 下劣なこいつらは、事前によく考えていたのだろう、多くの大公家の家臣どもが、それに倍する領民を人質にしてやがる。


 しかも、それでも、万が一を考えて、王女も弟もこの場にはいない。

 本当に姑息な奴で、何かあっても自分たちだけは生き残れるようにしてやがる。

 しかも人質には、抵抗できない女子供や老人ばかり選んでやいる。

 腐れ外道の兵士どもは、まだ満足に言葉も話せない赤子に剣を向けていやがる。


 こうなれば仕方がない、魔獣の住処だと言われ、入った者は誰一人戻って来れない、奈落ダンジョンに飛び込んでやろうではないか。

 だが、ただでは死なない、死ぬまで悪夢に責め苛まれるがいい。


「わかったよ、自ら奈落ダンジョンに飛び降りてやろう。

 だがお前らにはその行いの呪いを受けてもらう、俺は大魔導士の母上の子だぞ。

 死に際して最初で最後の大魔法を発動してやる。

 俺を裏切った者は、奈落ダンジョンの魔獣に喰い殺されて死ぬ。

 毎夜一人づつ、無残にはらわたを喰われて、地獄の苦痛の中で死ぬ。

 どこに逃げようとも、魔獣は地の果てまで追いかけて、お前らを喰らうからな」


 俺は、覚悟を決めて奈落ダンジョンに飛び降りた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る