第33話
周囲を警戒しつつ、ボルト・ザ・マックスとハイキック・エレファントも少し落ち着いてきたかと思われた時、通信で遊撃隊として行動していたポンプ・キッス・ガールたちが敵を捕まえたという情報が入ってきた。
確かガーディアンズ・オブ・トゥモロウからはハート・ビート・バニーとラック・ザ・リバースマンがいたはずだ。
「まずいよ。敵が自棄になって一気に来るかもしれない」
どちらかというとグッドニュースのはずなのに、ボルト・ザ・マックスはネガティブに捉えて勝手に心配している。
「おい、やっぱりアレ! あの車! なんとかしないとダメだ」
「そうだな。なんとか……しなきゃ」
「おう、やるぞ」
二人は肩を怒らせて車に向かっていく。
「ねえ。ピンちゃん、あれまずいよねー。どうした方がいい?」
サンシャイン・ダイナが声をかけるとピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは黙って奥歯を噛みしめる強張った表情になった。
嫌な感じがした。
ひょっとしたら冷静に伺っていたわけではなく、彼女も彼女で緊張し追い詰められていたのかもしれない。
かと言って、能力を使うこともできない自分がこの場でみんなをコントロールすることなんてできそうにない。
「おいっ! いるなら顔を出してくれ!」
「でてこい! 隠れてるんじゃねー! このテロリスト!」
すでに車の中にいる者は敵だと確信するように二人は車体を蹴りつけた。
あれだけの勢いで迫られたら出たくても出てこれないだろう。
「この野郎、出てこないつもりならこっちも考えがあるぞ」
ハイキック・エレファントはそう言って数歩下がる。
彼の右足が蛍光の緑色に輝きはじめる。
その足を振り抜くと車体の後輪が破裂し、大きく車体が傾いた。
車の中から二人の大人の男が慌てて出てきた。
「来るんじゃねぇよ! 来るなよ!」
ボルト・ザ・マックスは悲鳴を上げて逆だった頭髪を車から出てきた人物に突き出す。
彼の髪に触れた男は、激しく痙攣をして倒れた。
もう一人の男は怯えて逃げ出そうとした。
ハイキック・エレファントは背後からその男に襲いかかる。
倒れた相手を蹴飛ばして暴言を吐く。
相手が何かを言おうとしてもお構いなしだった。
「お前らの言い分を聞いてる暇はねえ!」
狂気が加速する中、車の中から転げるように一人の少女がでてきた。
まだローティーンだろう、子供のあどけなさが残る面持ちだ。
カタカタと震えて後ずさりする少女。
容赦なく二人は迫る。
それを攻撃しようとした時、二人が大きく吹き飛んだ。
その場所に現れたのはピンキー・ポップル・マジシャン・ガール。
「あまりにも、あまりにも許せないわ。こんな子供にまで! あなたたちの戦いは、誰かを救うためのものなんかじゃない!」
ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは泣いていた。
目の周囲を覆う彼女のマスクの縁に涙が溜まっていく。
その涙を見た時、サンシャイン・ダイナはどこかで決定的に彼女を見誤ってたことに気づいた。
いつからだったか、彼女が深刻な表情で、話しかけても気の抜けた愛想笑いしか返さなくなったのは。
チームの待遇が代わって慣れない状況に戸惑っているのかと思っていた。
ガーディアンズ・オブ・トゥモロウのメンバーの中では、はっきりと自己主張をするタイプの彼女だ。
問題があれば誰かに打ち明けるような気がして安心していた。
「子供じゃねぇ。テロリストだろ」
「こいつら今叩きのめさないといずれ面倒なことになるんだよ、それがわからないのか」
正義に酔っているのか、暴力に酔っているのか、二人はつばを飛ばしながらそう訴える。
サンシャイン・ダイナは近づくこともできず、ただ見守るしかなかった。
ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールはマスクを脱いだ。
ピンクの髪が揺れる。
そしてスーツの超本営のマークを引きちぎる。
それと一緒に胸の上、肩と二の腕の部分も露出した。
「いいえ、あなたたちは間違っている。あたしはダーティ・クリムゾン・ラッシュ・ベクター・レディ、今より真顔の反骨の使者よ!」
そう言って少女を抱え上げた。
「ピンちゃん!」
「ダイナちゃん、ごめんね」
振り返りサンシャイン・ダイナに向けた表情は、どこか悲しげで、いびつに笑っていた。
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