第32話

 ギスギスしたやりとりの中で、サンシャイン・ダイナは呆れていた。


 人間の一番わけのわからないところは、戦わなくていいのに戦いたがるところだ。

 仲良くしてても誰も損をしないのに。


 ハニー・バレッツに所属する電撃攻撃を特殊能力として持つボルト・ザ・マックス。

 アタック・ザ・ファイティング・ゴングに所属する肉体強化系のハイキック・エレファント。

 そしてガーディアンズ・オブ・トゥモロウのピンキー・ポップル・マジシャン・ガール。


 ボルト・ザ・マックスとハイキック・エレファントは他のメンバーから離れるとすぐに口論を開始した。


 男同士というのはすぐにぶつかり合う。

 これが女同士だったら、内心はもっと過激にぶつかっていても表面上は穏やかに仲良くするものだ。

 ただぶつかりながら相手の実力を確かめてるような感じもする。

 そのあたりのやり取りが動物っぽい。


 結果的にハイキック・エレファントが兄でボルト・ザ・マックスが弟のような感じになっていた。


「おい、やばいだろ、アレ」


 ボルト・ザ・マックスが落ち着きのない声を上げる。


 排出口の周囲を警戒しはじめると、そこには数台の自動車が駐車してあった。

 一台は大きな白いワンボックスで天井にアンテナがついている。

 ひと目見てマスコミ関係とわかる。


「うるせーな。さっきからガタガタと」

「ハイサイエンス第6エネルギープラント襲撃、通称トロイの惨劇知らないのか?」

「知らねーよ」


 ボルト・ザ・マックスはまだ新人らしい。

 歴戦の強者揃いのハニー・バレッツの中で鍛えられていると言っても、今の即席チームでは勝手が違う。

 知らない人の家に預けられた猫のように警戒心を解かず、かなり怯えている。

 呼吸が荒く目も血走っていた。


 その警戒心が伝染したのか、ハイキック・エレファントもどうやらナーバスになっているようだ。

 言葉がどんどん乱暴になって周りに対する配慮がなくなっている。


「車ごと突っ込んで中から能力者たちがワラワラ出て一気に制圧されたんだよ」

「あの車が怪しいってのかよ! なぁ、あの車がそうだってのかよ!」

「わかんないけど、変だろ。あんなの!」

「そうなんだな。あの車がそうなんだな!」


 二人のやり取りはヒートアップしてくる。


 このチームにおいてリーダーシップを取るのは、当然ガーディアンズ・オブ・トゥモロウのリーダーであるピンキー・ポップル・マジシャン・ガールだ。

 チームを編成された時点でそう考えられていたはず。

 しかし彼女は塞ぎ込んで二人のやり取りにも加わらなかった。

 遠慮とも違う、なにか他に心が移っているような感じだった。


「マジありえないって。二人共強いから、敵がわらわら来たって倒せるよー」


 なんとか二人の緊張を取り除こうとサンシャイン・ダイナは声をかける。


「何もないって言えるの? お前それ責任取れんの?」

「女に文句言ってもしょうがねえだろ! 俺らが守らなきゃならねーんだから。守らなきゃ。俺らがやらなきゃダメなんだよ」


 二人の感情を抑えるのは難しい。

 こんな風にならずに、フレンドリーに受け入れてくれたガーディアンズ・オブ・トゥモロウはどれだけいいチームだったのだろうか、とありがたくなった。


 色々と衝突もあったけれど。


 そう思ってピンキー・ポップル・マジシャン・ガールを見る。


 彼女は背筋をピンと伸ばして冷静な目でボルト・ザ・マックスとハイキック・エレファントを見つめていた。


 状況を把握するために伺っているように見えた。

 なんにせよ、彼女がちゃんと統制をとってくれるなら安心だ。


 二人が落ち着かない気持ちはわかる。

 突然見知らぬ者とチームに割り振られ、エネルギープラントの守備という大きな任務のプレッシャー。

 なにかあったらという不安と、どこから何が来るかわからない恐怖。


 サンシャイン・ダイナは自分のことを楽天家だと思っている。


 悩みがないわけではないが、他の人の話を聞いていると、自分はそこまで考えていないことを思い知らされる。


 この場にピンキー・ポップル・マジシャン・ガールがいることも心強かった。

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