第16話
もっとハチャメチャな展開にならないかなと、ザ・パーフェクトが期待していると背後から声が飛んできた。
「
博士の隣りにいた背の低い女性研究員が声をかける。
「小さくない! 150センチメートルだ」
「恐れ入りますが、18メートル以下のものはロボットとは言えないかと思うであります」
女性研究員はメガネを指で直し冷たく言い放った。
どうもこの研究所は変人が多いらしい。
木大角豆博士も色々と人間関係は大変そうだ。
「わからないので教えていただきたいのです。これも皆さんの研究所を守るためです」
ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールはキレるかと思ったが、むしろ逆に笑みを浮かべてことさら優しく言った。
言葉遣いも普段より丁寧になってる辺り、怒りを抑えすぎて噴火直前という感じだ。
リーダーであるという責任感だけが彼女を人間につなぎとめている唯一の希望なのだ。
「あわわわ。お願いします。教えてください! 私バカでなにもわからないんです」
ハート・ビート・バニーが焦ってフォローを入れる。
「自らをバカだと認められるものはそれほどバカではありません」
「あわわ。そんなことないです。あの、1+1もわからないのら~」
ハート・ビート・バニーはピンキー・ポップル・マジシャン・ガールと博士を交互に見ながら、挙動不審にまくし立てる。
いくらなんでも、そんなバカはいないだろうが、彼女の必死さは痛いほど伝わってくる。
「外殻は強化プラスチックです。関節部は合金ですが、骨格は軽量化のためカーボンになってます」
博士は小さく咳払いをすると話しはじめた。
「ロボット相手だったらこっちも遠慮なく火器を使えばいいさ」
ラック・ザ・リバースマンがショックガンを構える。
「できれば能力を駆使して倒したいの。そのほうがきっと……査定がいいわ」
「音にも熱にも反応する。そんなやつを相手に裏をかくとなれば……」
「つまり音よりも早く動けばいいってことよね」
ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールとハンド・メルト・マイト、ラック・ザ・リバースマン、ハート・ビート・バニーの四人はロボットたちの方に向かった。
残ったザ・パーフェクトとサンシャイン・ダイナの周りには博士と研究員が見守っている。
ロボットたちの守る中枢も、四人がそこに向かう姿もモニターで見て取れる。
特にすることもないので、ザ・パーフェクトは勝手に椅子に座った。
全員が正面に並んだモニターをにらむだけの時間がすぎる。
「ねえ、怒ってる?」
ふいに口を開いたのは、サンシャイン・ダイナ。
彼女は博士の顔を覗き込むように回り込んで首を傾げた。
「……いえ」
博士は引きつった顔で一言答えた。
こんな何も考えない顔で、正面から尋ねられたら怒ってるとは答えられないだろう。
「ハッキングってよくわかんないんだけど。その人を捕まえられないの?」
「当然すでにネットワークは遮断してます。しかしハッカーの方が上手で自律プログラムを書き換えられてるんですよ。いやはやあんな手があったとは。恐ろしいですよ、なんでしたっけ? なんとかの骨というハッカー。有名なやつじゃないんですか?」
「これ、ロボットなんで出てこないの?」
博士の疑問には首を傾げただけで答えずに、サンシャイン・ダイナは続けた。
あくまで自分ペースを崩さない。
「守ってるという表現が適切だと思われます。これが巧妙な仕掛けでして、この場所は研究所の制御プログラムの核、マザーがあるんです。それ自体はハッキングもされておらず無事なんですが、なにせ集中型なもんでメンテナンスが欠かせません。二三日ほっといたからと言って悪くなるものでもありませんが、何かあってからでは困る。人は必ずいつかこの場所に入らなければならない。しかし、ご覧の通りです」
「ロボットの裏をかくって難しいねー」
「はい。打って出るような行動を取らせない辺りがハッカーの恐ろしいところです。こっちが行かなければ危険はない。でも行かなくてはならない。はっきり言って人類の敗北です。打つ手はありません。もし、真心回路を破壊できれば別ですが」
「そっか~。真心回路がなんとかなればいいね」
「なに、真心回路って?」
サンシャイン・ダイナと博士のやり取りを聞いていたザ・パーフェクトは思わず二人に問いただすように言う。
「それ! なに? 真心回路って?」
ザ・パーフェクトの言葉を繰り返すようにサンシャイン・ダイナはキリッとした表情で博士に尋ねた。
どうやら全然わからないまま聞き流してたらしい。
「言いませんでした? 言ったところでどうにもならないと思いますが。真心回路を破壊すればロボットはお互いの認識ができなくなり同士討ちをし始めます」
「なるほどね~」
「それじゃ弱点じゃん。最初から言ってよ」
「ホントだ。弱点だ。ウケる。なにそれー」
サンシャイン・ダイナは明るく笑い声を上げた。
なんとなく、サンシャイン・ダイナの言動が読めてきたような気がする。
彼女はきっと相手の言っている言葉の意味を理解してない。
それよりも、相手がどういう表情で言ってるのか、状況はどういう雰囲気なのかという感覚のみで会話をしているようだ。
それがわかると、急に視界がひらけたように楽しくなった。
今までチームにはいなかったタイプだ。
そして異物のように見えるが、彼女は自分から和を乱したりはしないタイプに思える。
強力な個性がありながら、それをただなんとなくいい雰囲気にすることだけに発揮する。
むしろ、状況に流されながら自分の立ち位置を確立するザ・パーフェクトと相性が良いような気がしてきた。
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