第3話

「そこまでだぜ! 狂乱のマッドフランケン!」


 角を曲がって、見通しのいい通路で待ち構えていた男にハンド・メルト・マイトが声をかけた。


 狂乱のマッドフランケンは、こっちを見て驚くとキョロキョロと後ろを振り向いて誰のことを呼んでいるのか確認をしていた。


 そこにピンキー・ポップル・マジシャン・ガールが体当たりをして一気に制圧する。


「どうやら裏をかいちまったようだぜ」


 ハンド・メルト・マイトが口笛を鳴らす。


「あそこにもう一人います!」


 ハート・ビート・バニーがそう声を上げた。


 彼女の視線の先で犯人はすでに銃を構えていた。

 身体には弾帯がまとわりつき、手にはサブマシンガン。

 その銃口が火を噴く前にラック・ザ・リバースマンは飛び出して身体を盾にした。

 銃弾が定間隔で縫うように身体を撃ち抜く。

 両手を広げなるべく多くの銃弾を受け止める。


「フレッシュ!」


 そう叫びながら犯人に向かって前進する。


 男は怖気づいたのか攻撃をやめて銃口を上に上げた。


 その瞬間にもうピンキー・ポップル・マジシャン・ガールが犯人を壁に叩きつけていた。


「フレッシュ! みんな、怪我はない?」


 ラック・ザ・リバースマンは振り返り、自分の背後にいた仲間の安否を確認した。


 ザ・パーフェクトとハート・ビート・バニーはお互い抱き合うようにして頷く。


 ラック・ザ・リバースマンは活躍の場面を見てもらえたことに満足していた。


「やれやれ、危機一髪だ。警戒してなかったら今頃は全滅だぜ」


 床に倒れ込んでいたハンド・メルト・マイトは、立ち上がり足の埃を払う。


 ラック・ザ・リバースマン、ハンド・メルト・マイトとピンキー・ポップル・マジシャン・ガールが二人の強盗を拘束していると、奥の部屋から笑い声が響いた。


「フッフッフッフ。諸君、そこまでだよ」

「何者だぜっ!?」


 ハンド・メルト・マイトが叫ぶ。


 全員がそこ注目すると、暗がりから明かりのもとに緑の頭のよく知った顔が覗かせた。

 前髪は眉の上で短く切りそろえられ、ゴーグルのような太いフレームのメガネを掛けたミニスカートの少女。


「皆さんご存知、ザ・パーフェクトちゃんですよ」


 その隣には汚れたジャンパーを着た小太りの中年男性が彼女に肩を担がれる形で歩いている。


「パフェさん、その人は?」

「人質として捕まっていた中頭なかがみ社長だよ」


 ラック・ザ・リバースマンは自分の迂闊さに奥歯を噛み締めた。


 一般人の証言という美味しい部分をザ・パーフェクト一人に掻っ攫われたからだ。

 きっと社長はザ・パーフェクトに助けられたことを人々に話していくだろう。

 銃撃から身を挺して仲間を守るなんてのは、報告書にものらない身内だけの活躍だ。


「失礼ですけど、あなたの名前は?」


 ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールが社長に向かって尋ねる。


「中頭だが」

「いいえ、違います」


 社長の言葉にピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは冷酷に首を振る。


 その反応に一同は緊張感を持った。


「この人が社長だよ。写真と同じ」


 ザ・パーフェクトがガジェットを操作すると全員の腕についた小型モニタに映像が共有される。


 写真の方がキリッとした表情だったが、間違いなく同一人物だ。


「いいえ。ただの中頭社長ではないはずです。なにか、すごい二つ名があるんじゃないですか?」

「え? 社長もそれやるの?」


 想定外の事態にラック・ザ・リバースマンは思わず声を上げてしまった。


「やらないの?」


 ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは不思議そうな顔をして首を傾げる。


「確かに。やらない手はないぜ」


 ハンド・メルト・マイトがパチンと指を打って同意する。


 中頭社長だけが状況を理解できず顔がこわばったままだった。


「中頭工業株式会社は宇宙時代の新素材、ナカットテクト・ノートを開発してます。これは極小の繊維を編んで作るためにあらゆる形に加工もできる画期的なもので、すでに多くの最先端の現場で使われています」


 ハート・ビート・バニーが早口でガジェットから資料を読み上げた。


「詳しいね、キミ。そう。ワシが長年かけて開発した、うちの会社の一番の商材だ」


 中頭社長の表情がにわかにほころんだ。


「天才じゃないですか。天才の中頭社長だ」


 ラック・ザ・リバースマンは素直にそう声を上げてしまったが、二つ名のアイデアとしては平凡な気がして少し後悔した。


「ん。まぁ、自分で言うのも口幅ったいが、そう評価されることはやぶさかではないな」


 中頭社長は誇らしげに答える。


「弱いぜ」


ハンド・メルト・マイトが厳しい表情で言い捨てた。


「え?」

「それだけじゃ弱い。天才の中頭社長? そんな上っ面だけの言葉じゃ誰の心も揺さぶれないぜ」

「な、なんだキミは」


 ハンド・メルト・マイトが中頭社長に近づく。

 長身のハンド・メルト・マイトの影になったせいか中頭社長の顔が曇って見えた。


「これだけの工場を経営する手腕。なによりも、凶悪な強盗たちに一歩も引かずに渡り合う度胸。天才の中頭社長ってだけなら生還はできやしないぜ。言うなれば、ゴッド・ソウル中頭社長ってとこだろ」

「ゴッド・ソウル……。このワシが……!」

「あぁ、俺の見る目に間違いがなければ、あんたがゴッド・ソウル中頭社長だ」


 中頭社長はハンド・メルト・マイトの言葉に、目をうるませる。

 うつむくと鼻をすする音を鳴らした。

 再び顔を上げた中頭社長の表情は晴れやかだった。


「このゴッド・ソウル中頭。助けてくれたことに心から感謝する。キミたちは?」


 ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールが手を高く掲げる。

 その右にラック・ザ・リバースマンとハート・ビート・バニー。

 左にはハンド・メルト・マイトとザ・パーフェクトが並んでポーズを取った。


「あたしたちは、スタイル・カウント・ファイブ。正義と秩序のために戦うスーパーヒーローチームです」


「スタイル・カウント・ファイブ……そんなスーパーヒーローチーム、聞いたことない」

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