傲れる花園
古川暁
poena 罰
第1章 praefatio<序章>
悪魔。そう呼ばれる奴らは確かにいた。霧中歌と共に現れ、恐怖の具現物である悪魔は死と地獄の鍵を持つ堕天使である。
「霧が出始めたぞ。」
荒波に揉まれる船内に荒げた声と慌ただしい足音が響く。そして大型のガレオン船を深い霧が包み込む。
「魔の海域だ。皆用心せよ。」
いつしか海面は奇妙な程鎮まっている。霧は妙に生温かく甘ったるかった。
『RE METU …』
遠方から微かに歌声が漂う。
『Ego Autem. Babao Cluves Morris Et Inferni』(恐るな。我は死と地獄の鍵となる。)
魂を侵食する嬌声が響く。
「女だ、女がいるぞ!」
何人もの船員が落ちる寸前まで身を乗り出し叫ぶ。海の真中にいる女を見る為に・・・船員らの瞳の先に女は確かにいた。水銀のごとく輝く銀髪が潮風にはためき、燃え盛る炎のように緋く染まった唇がチラつく。宮殿の壁画の一部のようなその姿は彼らの魂を喰らうように虜にした。辺りが静まり返る。女は乱れた髪を掻き揚げ顔をあげた。彼らの虚な目に彼女の顔が映る。この世の物とは思えない醜い顔が。彼女こそまさに悪魔だった。
『Pulus』
蛇が噛み付くように囁かれたその言葉と共に女は黒い海へと身を投げた。女が座っていただき岩は今、泡となって散った。
地図に載る事のない黒き海の中央で雷によって粉砕されたガレオン船が渦に呑み込まれ消えた。牙と爪を血に染めた女は独り海底へと姿を消した。
16世紀前半ヨーロッパの日暮れであった。
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