33.高見 ナビ中
なんて思っちゃいるけど、慣れないナビに少し苦戦してる。こういうの得意なのって笠原さんでしょ? 笠原さんっていうのは、こないだもモニタ越しに挨拶したけど。私たちが敵対してる笠原工業の家系なんだよね。
ずいぶん前に家業を継がずに飛び出して情報屋みたいなことをしてる、伊野田さんの友達。あの二人、付き合いが長いみたいで今も中立地帯で一緒にいるんだってね。なんか相棒って感じよね。
そしてそこにレルラも居る。レルラってね、伊野田さんと同じ、笠原工業生まれのデザイナーベイビーなんだって。なんでも違法オートマタを造るのに特別に作られた人間素材らしいんだけど、それぞれ特色があるんだっていうの。私からしたらその時点で既に人造人間じゃん、って思うんだけど、そこから改良に成功すると、いわゆる違法オートマタになるんだって。
違法オートマタって、デザイナーベイビーから作るのと、悪徳業者が廃材や盗品を組み合わせて製造した機体も含まれるんだけど、前者の完成したのが今のところウェティブ・スフュードンっていうしつこい機体だけ。人間ベースだからなのか、思考は複雑だし感情もあるし。関わったことあるけど変な感じよ。もちろん頭上の正規品の証である円環なんて回ってないから見分けなんてつかない。
あれはもう、ただの高性能な人間よ。
この機体と伊野田さんが追いかけっこしてるときに私と黒澤さんが出会ったんだよなぁ、懐かしい。おっとモニタに動きがある。
「黒澤さん、右です。左に行くと、警備がいる」
しかしよー、サーバールームから保管庫までの通路に潜入開始して、今こうして二人を誘導してるけど、だだっ広いな。倉庫って言ったらプレハブとかレンガ造りだと思うでしょ。図面見た時にも思ったけど、ただの綺麗なオフィスビルだよこれは。
確かに夜間作業してる人は動きやすい恰好だし、トラックの出入りも見受けられるから倉庫なんだろうけど。これはなかなかやっかいだなって。今やってることっていわゆる泥棒まがいなことなんだけど。それでも、笠原工業が造っている良くない流れを、伊野田さんを助けることで変えられる可能性があるなら、やりたいなって思ったのは本当。それでドキドキしてる。
ついでに運転席の琴平さんは、笠原工業側の動きを追っているからそれも気になるけど、今は私、こっちのナビに集中しなきゃいけない。潜入自体は想像以上に簡単だった。まずメンテ業者のふりをして偽造IDで潜入。実際にサーバールームで仕事をした。つまり私たちは、普通なら有料の作業を無償でしたことになる。
それで保管庫までのナビをしてるわけだけど、なんかこれほどまで障害がないと逆に不安になってくるなぁ。だってもう保管庫に着いちゃうよ。本当にこのまま何もないの? 確かに警備システムはアップグレードされてたけど、突破がすごい簡単だった。そんなこと、ありえないと思うんだけど。
って感じでふと視線を感じたから隣を見たら、琴平さんがエンジンをスタートさせていた。なにか言いたげな感じで私をちらっと見てから、ハンドルを握って車を滑らせた。いっつも同じ表情でいるから、この人が言い出すことが緊急性があるのかないのかわからないけど、とりあえず「なにか?」って顔は、しておくよね。そしたら黒澤さんの音声が届いた。「素材回収」って。ほら、簡単すぎる。
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