来訪者

6.休日の憂鬱

 連日降り続ける雨のせいで気が重くなるなどということは、メトロシティに住み始めてから数年で無くなった。


 初めの頃はやはり故郷と比べてしまい、日照時間の短さや雨の多さにうんざりしていたのだが慣れてしまった。これで湿度が高かったり気温が著しく低い土地だったらまた話は別だが、今ではさほど不自由を感じないのだから慣れとは怖いものだ。


 むしろ晴天で直射日光がジリジリ当たるよりかは、シトシト降る雨模様とのほうが気が合ってると思っていた。そんなことを同僚に話すと、彼女はレンチ片手に「だからちょっと性格が暗いんですね。あ、暗いって根暗って意味じゃなくて、ええと、お茶にしません?」という言葉をかかけてきたが、彼は少し納得してしまった。


 反対に今日は仕事に出ている同僚には、この街よりももっと温暖な気候の方が合っているように思えた。例えば、遠方になるがテグストル・パールクである。彼のイメージだと、その街は海沿いのオープンカフェからカントリーソングが流れてきて、カラフルなオープンカーが往来を行きかうようなそんな具合である。


 有名な観光地で”虹色の街”という冴えないキャッチコピーが付いているのは知っていたがそれだけだ。麻の生地の衣服を着た住人がサングラスと日除けの帽子を身に着けて、ゆるりと生活をしている様を想像する。


 なぜその街の名前が出てきたかというと同僚の影響もあるが、今しがたその街からメトロシティに戻ってきたと知人から連絡が入ったからである。送信元の名前を見て目を疑ってしまった。しかもその男が言うには職場であるガレージではなく、彼の、黒澤の個人宅にこれから訪問すると言ってきたのが、数時間前。


 どうしてこのタイミングなのか。どうして自分の休みの日に連絡がきたのか。どうして今日自分は予定がないのか。どうしてコーヒー豆を買ったばかりの今日、連絡が来るのだろうと、黒澤は恐々とした。再会を喜ぶような仲ではないし、偶然連絡を寄こしてきたわけではないだろう。

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