4.きれいな髪
私は、ウエストポーチの中から手のひらサイズのグレネードをひとつ取り出した。いくらウェティブが転送してるっていっても、その機体自体が万能ってわけじゃない。ガタが来てる場合もあるけど、逆に状態が良い場合だってある。それはわからないから…。
「だから、いっちょ試してみなきゃね」
取り出した冷却グレネードのラベルを剥がして、思い切り投げつけた…んだけど、予想より左に飛んで行った。ウェティブはそっちなんて見ないで、まっすぐ私の方に向かってくる。まるではじめから当たらないことがわかってたみたいにさ。ちょっとむかつくよね。
あと数メートル。
咄嗟にホログラムシールドを取りだし、傘を開くように展開させた。そのまま思い切り前方に突き刺すと、私と相手の間に空気を歪ませた壁ができる。私は黒澤さんたちみたいに、正面からまともに戦うタイプじゃないって、ウェティブは知らないのかしら。
いくらウェティブでも、こんなもん展開させたら正面から突っ込んでこないでしょうよ。私は持っていたシールドをそのまま真横に薙ぎ払った。機体の不意をついてから、シールドで自分をガードしよってわけ。
でも、左手に新たに準備した衝撃グレネードを投げつけるより先に、その機体は突然現れた黒い影のせいで左に飛ばされた。ように見えた。
わけもわからず瞬きすると、黒い影は獣でもオートマタでもなくて、デカイ人間だってわかった。180センチは余裕で超えてるように見えたから、この距離だとその人の胸のラインに私の頭が届くか届かないくらいのデカさだった。その人は勢いそのままに機体を踏みつぶして、さらにどこから取り出したのか槌みたいな鈍器でオートマタの頭を叩きつぶした。すごい速さで、その人が動くたびに雨粒がぴっぴっと左右に飛び跳ねた。
この間に私は反動で尻もちをついていた。もっとびっくりしたのが、私を見たその人が女の人だったってこと。なかなか刺激の強い出来事に私は思わず口元を緩ませてしまった。自分の理解の許容範囲を超えると笑っちゃうから。その人はオートマタにぶっ刺さった槌を引っこ抜いてから、私に向き直って手を伸ばし、立ち上がらせてくれた。良かった、殴られなくて。
影になって良く見えなかったけど、立ち上がってさらに見上げると、そのひとは目深に被っていた帽子のつばを人差し指でそっとあげて、私に顔を見せてくれた。目力はあるんだけど、表情に力ない笑い方で、誰かに似てるなって思った。その人は腰に手をあてて、私の投げた氷結グレネードの飛んで行った方を見て口を開いた。ゆるりと束ねた赤毛が、 帽子の陰から覗いている。きれいな色だった。
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