第11話 変化

「魂をコピーされた、が正しいかもしれません。VANとコニア、そしてサクトさんです」


 今日脳にアクセスされて、次に魂のコピーかよ……


「魂は今どこに?」


 すると「今調べます!」と言って黒いパソコンをアイテムストレージからオブジェクト化し、魂の位置情報について調べ始めた。真剣な表情でも目は少し楽しそう。


 機械……ハック?でもオタクだろうな。楽しいのは別にいいんだけど、パソコンはKSOに存在するのかってことに驚いてるんだよな~。魂の位置を調べることができるなんてチートかよ。


 驚いているとエンターキーのようなところをカチッ!と音を立てながら力強く押す。


「分かりました。このゲームではないですね」


 額から流れてきた汗を拭いながら言う。


「このゲームではないってどういうことだ?」


「KSOには今2800人います。今日、脳にアクセスされていて魂をコピーされたなら数値が増えているはず。けれど増えていない。考えられることはプレイヤーとして設定していないか、このゲームにいないか。ですがプレイヤーとして設定していないという可能性は低いですね」


「なんでなんだ?」


 そう言うとパソコンの画面をこちらに向ける。表示されていたのはAI、NPC、プレイヤーの3つの数と1階層、2階層のマップ。AIはゲーム内に1000。NPCは3000。プレイヤーは2800と表示されていた。


「これがどうしたんだ?」


「見せても意味わからないでしょうけど、2週間前。AI、NPCはいなかった。ですがそれより前、2か月前です。AIが2体、存在を現したんです。コードネームはプロジェクトNo.1、プロジェクトNo.2」


 プロジェクト……か……嫌な予感しかないな。


「今はそのプロジェクトNo.1、プロジェクトNo.2はいるのか?」


「質問だらけで困るんですけど……。KSOには今日、いなくなりました」


 俺はまた出てきた『今日』という言葉に引っかかる。


「また今日。何かの記念日じゃないんだからさ~」


「やっぱりサクトさんに会ったから、と考えてますね」


 俺に会った……託っていう奴と会った……あの黒いマントの男か?奥にいたリーダーっぽい奴なのか。分からない。


 首をかしげながら考えていると女の人が少し強めに肩を叩く。


「聞いてください!!ドアをどんどん叩いている人が!!」


 ドアのほうを向くと、いつ壊れてもおかしくないほどのギシッという音が。ドアのほうまで走って行きドアを開ける。


「違う部屋で何してたの!?」


 物凄い怒った表情を浮かばせて俺の背後にいる女の人を殺意混じりににらむ。


「まあまあ。こいつは俺のことを調べていただけだから」


「調べて!?」


 余計殺意が表情に現れていく。


 勘違いしてるのかな!?絶対そうだな!


 ユイが鞘から剣を抜き、剣を振る。女の人はすぐさま部屋にある剣を1つ取ってブロックした。ユイはいったん離れて、ソードスキル、ウェイトを使おうと剣を構えて赤色のエフェクト光を輝かさせた。


「だ・か・ら・さ!!!!」


 俺が鞘から剣を抜いてウェイトのシステムモーションを強制的に終了させる。正しくは剣をはじいたが正解だ。


「なに!?黙ってて!!」


「そうですよ!」


 また剣を交えようとするが2人の剣を俺の剣2つでそれぞれブロックする。


「あのさ……ここで死んだら本当に死ぬかもしれないって時に殺し合いをするなって……」


 そう言うと2人とも納得のいかないような顔をするが鞘に剣を収めた。そして部屋の椅子に座り、女の人から何をしていたのかを言っていく。


「とりあえずどういう理由でここに来たのか分かった。ごめんね、サクト君」


「別にいいよ。剣を抜くことはこの世界がゲームでも駄目だからな?」


 反省したのか女の人にもちゃんと謝罪して俺にも何度も何度も謝る。


「すみません。私まだ聞きたいことがありまして……」


 ため息をつき、少し考えたが「別にいいよ」と言い、椅子に座った。


「まず、あなたは今現実世界で何が起こっているかを知っていますか?」


 急に何なんだ?現実世界に何が起こっているかなんて、2か月も聞いたり見たりしてないからわかるわけない……


「知りませんよね」


 俺が答える前に言う。驚きながらもなんで先に言ったのかを聞くと「し、知ってましたよ?」と動揺しながら答えた。


「そ、それはいいとしてですね……託が作ったプロジェクトのことを知らなかったですよね。私は知っています」


「どうして!?」


 何かに関わっているのかと思い怒り混じりで言うが関係者ではないと首を横に振りながら口をまた開く。


「世界ネットワークの管理、世界の情報収集を仕事とする会社、『KYURASU』の秘書。伊井 瑠奈(いい るな)。キャラクターネームはルナ。テロや事件の情報も取り入れています」


 KYURASUはアメリカに本部を置いており、極秘情報を取り扱うと有名な会社。5年に1度に会社に入るための試験がある。毎回10万人が受けて1人しか受からない。


 慌てて俺とユイは敬語にして「すみませんでした!」とお辞儀をする。


「いいですって!サクトさんを無理やり部屋に連れ込んだのは私ですので!さっきと同じでいいですよ?」


「そ、そうか?ならそうしてもらうけど……託の作ったプロジェクトはKYURASUで情報収集していたってことか?」


「いいえ。KSO内で調べていました。KSOのプログラムにKYURASUの受信を割り込ませて情報の受け渡しや通話等をして託の調査を。パソコンがあるのはKSOのアイテムプログラムを増やして手に入れたものです」


 KSOのプログラムはかなり厳重。そこに割り込むことなんて……思っていた以上にすごい会社なのか。俺を調べたかったのはプロジェクトに関わっていたのではと思ったからだろうな。


「プロジェクト内容、それは魂が消えて言っている途中にその魂を引っ張ってゲーム、いや、世界シュミレーションに持ってくる。疑似的転生シュミレーション、『In pseudo-way Transmigration Simulation』

 略してITS。現在成功している人数は10人となっています」


 その人には転生をしたと思っているが、実際は違う体に自分の魂が入ってプロジェクトに参加しているってわけか。体はゲームと同じようにキャラクターの体。成功の率は少ない……


「俺と何の関係が……」


「もしかすると転生した感覚ではなく普通にそのシュミレーションに入れようとしているのではと……でもあなたがそれに合意しないと行えないことなので、大丈夫だと思います。KSOの情報はメッセージを送りますね」


 俺はうなずき、少し安心しつつ俺とユイは立ち上がる。


「じゃあもう行くよ。今は現実世界に帰ることだからな。何か分かったりしたらメッセージを送ってくれ」


「分かりました」


 俺とユイは部屋から出る。ルナはエミを浮かばせながら小さく手を振って見送った。ガチャっとドアが開く音が聞こえ、前を向くとエミとアイルの姿が。


「なんで違う部屋に2人……!」


 なぜかユイとエミ顔を赤くしながら後ろを向く。アイルと俺は何のことか分からなず首をかしげて目を丸くする。


「よくわからないけど、まあいいや。ダンジョン攻略が先だからさ」


 ユイとエミを気にすることなく宿屋を出た。


 *


≪2500年 6月2日 午後2時≫


 約1か月が経過した。階層は5階層に突入。そこからが難しく5階層のダンジョンは2つだけ攻略できていない。俺とユイは5階層に建てられたトラムポッツの拠点となる城が作られた場所のリーダー室に来ている。


「ヒルガオさん、俺たちだけを呼び出してどうしたんだ?」


「悪いとは思っている。事件があった。黒いフードをかぶった男が2階層の地下ダンジョンに目撃されたということだ。もしかすると殺人ギルドの生き残りの可能性がある。それに2人が行ってもらいたい」


 地下ダンジョンということは殺人ギルドを討伐した場所か……だとしたら生き残りという可能性は高い、ことになるってことかな。


「分かった。けれど2人は無理があるだろ。せめて10人は……」


 そう言っていると指をパチンと鳴らす。すると後ろにあった大きい扉がゆっくりと開いていき、1人の男が姿を現した。白い騎士服で右の腰元に白い鞘。髪は茶髪でショートウルフ。相変わらずKSOの機能で相手の髪型が表示される。


「最強プレイヤーのコニアを呼んである。相当のことがない限り安全だ」


 コニア……!!案内所でクエストを見ていた時以来会わず見てすらいなかった……1回こいつにパーティーに誘われたんだけど……どこにいるのかって思ってたけどトラムポッツにいたとはな。


「お久しぶりだね。サクト君」


 優しい笑みを浮かべるコニア。何を考えているのかが分からなく少し恐怖を俺は覚えた。


「お、おう……それじゃあ早速行くか」


 そう言いドアの方向を向いて歩いた。それに続いてユイ、コニアと歩き始める。



「君たちには頑張ってもらわないと」


 コニアが何かつぶやいたように聞こえて後ろを振り向く。


「何か言ったか?」


 ゆっくり首を横に振り、俺たちを抜かして前に早歩きで歩いた。一瞬だけ見えた横顔は、何かを企んでいるような顔だった。

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