第10話 殺人ギルド討伐

 キーン、キンと剣と剣が当たり合う音が響き渡る。腕を斬られてもなお殺そうとしてくる男や、VRMMORPGをかなりやってきた男などがいた。



「お前は何がしたいんだ!!」


 VANの剣を弾き飛ばし、地面に刺さる。


「殺しが楽しい、ただそれだけのことだ」


 人間としてどうなんだよ……殺すこと、それは簡単にしてはいけない。いくら殺さないといけないという相手だとしても抵抗はある。当たり前のこと。でもそれを楽しいと言ってるんだ。


「お前の好きにはさせない、絶対に!!」


 剣で戦っていると奥に緑色の鞘を持っている男の姿がちらりと見えた。その男は誰とも戦わず、ただ俺たちが戦っているところを見ているだけ。


「あ、あいつは!」


 地面を力強く蹴り、男のほうへ向かう。しかし大剣が目の前で通り過ぎた。ソードスキル、投剣。近くにいた騎士服の男の胸に刺さり、HPバーが一瞬で0になり白い光となって消えていく。


「くっそ!!お前……」


 俺たちの作戦はなるべく殺さず捕まえること。殺人プレイヤーとなると一時的に行けなくなるエリアが存在してしまう。なるべきそれを防ごうということでアイテムの縄を使い縛り上げようという作戦。


「一旦動くのをやめろ!」


 アイテムストレージから縄をオブジェクト化して、VANの背後に回り固く縛り上げた。


「お前……!!何を!」


 剣を力強く握りしめ、HYUのほうへ向かい、剣を振った。

 ――――時が止まった、かのような、周りや俺が一瞬だけ動かなくなったかのような、どう表現すすることのできない感覚。


「なっ!!!」


 HYUは違う。あいつだけ動いていたのだ。白い霧が途端に現れ姿を消す。


「ど、どこに行った!?」


 慌てて周りを見渡してもあのHYUの姿はない。どこにも。


 もともとあいつはいなかったのか?そんなわけがない。確かにあいつはここにいたんだ。じゃあどこに……


「楽しくないな。もう少し殺し合いをしようぜ」


 後ろからVANの声。後ろを向くと剣を振り下ろしている最中だった。ギリギリのところでブロックしたが大剣の重さによってギギギと音を立てながら肩にだんだん剣が近づいていく。


「こんなに重い……のか!?」


 不気味な笑みを浮かばせながら楽しそうに剣にどんどん力を入れていく。俺のHPバーが黄色いゾーン、赤いゾーンに変わる。正直諦めていた。体や脳は生きようと力を入れようとしているが心だけが違った。諦めよう、諦めたらもうこの恐怖なんてなくなる、と。


「だめ――――!!」


 女の人の声とともにVANの左腕が斬られた。大剣は地面にドンと落ち、VANは驚愕の表情へと変わる。女の人はユイだった。


「ユイ!」


「間に合った……大丈夫!?」


 涙を拭きとりながらアイテムストレージから治癒ポーションを取り出して俺に使う。俺のHPバーは一気にマックスになり、心にあった諦める気持ちの雲が一気に晴れていく。


「負けるわけには、死ぬわけにはいかない!おらぁぁぁぁ!!!!!」



 ここから地獄のような戦いになった。


 殺人ギルドのアシナトのメンバーは30人死んで、こちらのほうも50人という多くの犠牲者を出してしまった。


「終わった……終わった」


「サクト君」


 2人一緒に地面に座る。俺は3人の命をこの剣で殺した。普通であれば許されないこと。こんなこと忘れたい。こう思うのは異常なのか、そう考えながら下を向く。少し時間が経ったときに縄で縛られた黒いマントの男が俺のほうを向いた。


「ま――――」


 小さな声で言われ、聞き取ることができなかった。その言葉が何だったのかを聞く余裕もなくすぐに騎士服の人に引っ張られて階段を上がって行った。


「大丈夫?暗い顔になってる」


 ユイは下を向いていた顔を前に向かせるように手で動かす。


「ああ。もうこの地下ダンジョンから出よう」


 ユイは「分かった」とうなずき、エミとアイルと合流した後、転移クリスタルを使おうとしたが転移不可エリアだったため階段を使って上に上がって行った。

 上に上がっていくときにも殺した相手の表情が浮かび上がる。


 はぁ……あいつらは何人殺してきたんだろう。別に気にすることなくあの男のように楽しんで、遊び感覚で殺してきたのかな……ひどい、ひどいけど、なんか……苦しい。俺が殺した奴は人間なんだぞ?俺は、俺は……!


 手や足の震えが止まらない。目も白目の部分が減り、奥が暗闇になっていく。


「サクト君!!サクト君!」


 誰かが俺の名前を呼びながら肩を叩いている。不安混じりの声。ユイだ。ユイの顔を見ると涙を流しながらどうしたの?と心配していた。返す言葉が見つからない。頭の中には男の顔だけ。何も考えられない、聞けない、恐怖心のみ。ただ階段を上っていくだけ。


「ねぇ!!ねぇってば!!」


 はっ!と我に返る。


「ごめん、ちょっと疲れが出たのかもな。今日はすぐに宿で寝てもいいかな?」


「うん、分かった」


 そう言った後無言で階段を上り、地上に着いた。すぐさま転移クリスタルを使い、ジャイルへと戻っていく。宿屋でチェックインし、部屋に入る。剣をアイテムストレージに入れてベットに飛び込んだ。


「寝よう、あんなことなんか忘れてしまおう。そうしよう」


 目を閉じ楽しいことを思い浮かべた。楽しくゲームをしたり、動画見たり、バラエティー番組見たり、学校でいろんな友達と話したり、ユイやアイル、エミと話したり、思いつく限りの楽しいことを。


 *


 暗闇に1人立っているAIの女の子。KSOにいるプレイヤーが映し出されている画面をじっと見つめている。


「今、どうなっている」


 後ろから聞こえる男の声。後ろを振り向くと黒いマントの男の姿が。剣を首元に近づけてこちらを脅している。AIは小さくうなずき、暗い表情をしながらも画面をまた見つめた。


「NPCの中にAIが入っているなんて思ってなかったからな。お前はしっかり学び、俺たちのためにプレイヤー調べつくせ。特に――――」


 ――――サクトって奴をな。


 *


 ゴンっと何かが地面に落ちた音が部屋に鳴り響く。慌てて目を覚ますと俺はベットから落ちていた。


「なんだ……俺か。こんな寝相悪かったっけ……まあ、いいけど」


 今の時間を確認すると、午前3時10分。メインメニューを見ているうちに少しずつ目が覚めていく。


「あ~目、覚めてきたな。外で散歩でもしとこうかな」


 俺はドアを開けて部屋を出る。カウンターに向かって歩いていると、ある部屋から物音をドンドン音が響いていた。うるさいなと思いつつ宿屋を出ようとすると部屋からナイフが飛んできて足に突き刺さった。


「ちょっと待って」


 ドアからひょこっと顔をだしている。ミディアムでシースルーバングの髪型。なぜか人の髪型が目の前に表示されて、ナイフを投げられたことと同じくらい驚きながら、ナイフのことを女の人に注意した。


「人の止め方知らないのか!?せめてちょっと待って、って言ってからどうしても、本当にどうしてもって思ったときにナイフを投げるだろ?他の人には絶対にするなよ?」


「ごめんなさい、でも、今は急いでください!」


 女の人は俺の腕を掴み、部屋に引きずり込む。部屋の中には剣が見た限り30はある。


 すごいな……断言したりしちゃいけないかもしれないが、オタク……なのかな~。剣オタクってわけわからないけど。


「で?どうしたんだ?」


 椅子に座りながら聞くとフレンド申請が目の前に表示された。


「え、えーっと……何?」


 こいつは何がしたんだよ……見ず知らずの人にナイフを急に投げられ部屋に連れ込まれてフレンド申請……性別が逆だったら別。男がナイフを投げて脅し、女を引きずり込みフレンド登録を強制的に……殺しがしたい奴ならこういうことをする人がいるっていう話もたまに聞くけど……


 いろんな可能性を考えていると、またナイフが飛んできて肩に刺さる。


「おい!!怖いって!!お前って、Sか?」


「やめてください!!!これは理由があるんです!!急いで!早くOKボタンを!!」


 俺の指を力ずくでもOKボタンに持っていこうと思っているらしい。俺の指を目で追い、OKボタンを早く押してくれと言わんばかりの表情を浮かべている。


「分かった、分かった」


 ため息をつきながらOKボタンを押す。


「ありがとうございます!まず説明ですね!」


 早口で言うほど何かに追われているのかな。何に焦ってるのか分からないけれど、聞いてやらないと、めんどくさいけど。


「あのですね。システムに生じたことなんですけど、『権限システム』が作動した形跡があり、それを誰に向けて使ったか、それがあなただった。私はあなたと話がしたくて、ということです!」


『権限システム』か……。使われた記憶なんてないな。


 権限システムを使った奴がいたかを頭の中にある記憶から探ったが見つからない。女の人は期待をする目で見つめてくる。


「分からないな。使われた記憶がないんだよ……」


「やっぱり!」


 期待していた言葉がきたのか、ガッツポーズをド派手にした。


「メモリーセッティングチェンジドライブ。記憶設定組み替えエンジンが管理者の権限によって作動していたんです。これが作動することで記憶を抜き取ったり、吹き込んだりできる。あなたは管理者に会ってその人に記憶を取られた。おそらく託」


 最後の託という名前に引っかかった。聞いたことがあり、憎んだ名前。けれど分からない。他にも記憶が消えた人だって……


「俺以外は?」


「1時間後に記憶が戻っています。あなただけ特殊なんですよ。あなたの脳にアクセスしている可能性だって……」


「脳にアクセスされたらまずいのか?」


 突然暗い顔になったことが気になりそう聞く。


「うまくいけばいいんですけど、うまくいかなかった場合、記憶喪失や運動神経へ信号を送ることができなくなる、など障害を負います。KSOプレイヤーで3人脳にアクセスされていて、1人はあなたで、2人目はVANという名の殺人ギルドのリーダー。3人目は最強プレイヤーと言われていたコニア、の3人です」


 コニアやVANがアクセスされるのは分かる……俺がなぜ……


「ちなみにアクセスされた日、それは今日です」


「今日……?」

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