瑠璃色の奇跡

伏木草

プロローグ

大きく腕を広げ、思わず深呼吸したくなる様な、どこまでも澄みきった青い空。

目を水平に戻せば、大学のキャンパス内に咲き誇る桜の木々。

冬の厳しい寒さから春を飛び越え、一気に初夏を思わせる日射しのせいで、例年よりも早く、満開の日を迎えた。

そのキャンパスに朝早くから、テンポの良い掛け声と共に、小刻みに走る集団が目に留まった。

遠くから一人のオヤジ警備員が、ブルーの制服に身を固め、颯爽と自転車に乗りながら、集団の正面からやって来た。

どうやら、朝の巡回を済ませた所の様だった。

オヤジ警備員は自転車から降りると、正に目の前を通過しようとする彼らに向かって、『おはようございます』と元気よく声を掛けた。

真っ黒に日焼けしたアメフト男子部員たちだった。

その集団の先頭にいた女子マネージャーが、その声に気がついた。

彼女はオヤジ警備員に向かって、爽やかな笑顔で、『おはようございまーす』と元気な挨拶を返すと、男子部員たちも、続いて答えてくれた。

なんと、すがすがしい一日の始まりだろう。

オヤジ警備員こと本名、瑠璃光介。

やや短めの髪をふわりと立たせ、メガネ越しに映る瞳がとてもクールで、実年齢よりも若く見えるオヤジは、スラリと背が高く、学生とも決して引けを取らなかった。

俺はオヤジさんの長男で、名前は和輝だ。

オヤジは永年勤めた会社を辞め、警備員になった。

俺には突然に思えたけれど、オヤジにとっては、三十年も勤めた会社を惜しみ無く辞め、警備の仕事を選んだのだから、ずっと前から考えていたに違いない。

だから、その事については、何ら疑問は感じなかった。

だが、オヤジが警備員になって、間もなく体験する事になる、ある奇妙な出来事のおかげで、俺はオヤジから目が離せなくなってしまった。








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