第30話 最悪な再会~先生ver.~
“カサッ…”
母親の葬儀をどうやって過ごしたのか覚えてない
葬儀のスタッフがテキパキと指示してくれるとはいえ決めることも多いから悲しみにくれることはできなかった
ただ一人になると緊張の糸が切れたかのように寂しさの渦に飲み込まれそうで――
そんなときはポケットにいれていたあの写真を思い出して何とか気持ちを持ちこたえていた
自殺ということで葬儀は家族葬にしたが
意外にも父親が背中を丸めて蹲って泣いていた
あの日から帰ってこなかった父親
俺が産まれてからも家に帰ってきたのはほとんどないと思う
それでもあの落ち込み具合をみると
父親は父親なりに母親を愛してはいたのだろう
家族のためと一生懸命父親は頑張っていたのは事実だから…
あの日俺が外に出なければ
母親は自殺なんてしなかったんだ
俺が教師を辞めるなんて言わなければ病気は悪化しなくてすんだかもしれない
すべて俺のせいだ――
父親はまだ仕事があるからと葬儀が終わったあと会社に戻った
こんな日まで仕事だなんてと母親は言うかもしれない
だけど残された人は何かに没頭していないと母親のほうへ引きずられそうになる・・・
「お客さん…お客さん大丈夫!?」
気づけばタクシーで乗り継いで早瀬が通う大学の街へやってきてしまった。
どれだけ酒を飲んだかわからない
母親の最後の姿を忘れたくて一人でひたすら飲んで
飲んで、飲んで、飲んで…
そしたら早瀬に会いたくなった・・・
「ひでー顔…」
店のウィンドウガラスに映る自分はお酒で顔は浮腫んで、髭も生え、メガネもしないで髪の毛もボサボサ…
「こんなんじゃ早瀬もわかんないな…」
こんな最悪な状態の俺に
三年ぶりに会ったって
早瀬は今の変わり果てた俺を見て呆れるだろうな・・・
「痛ッ…どこ見てんだよ!」
足元がフラフラで歩けず、通行人の男性とぶつかり道路に倒れこむ。
「はぁ~…」
立とうと思っても頭がクラクラして立てない
座って目の前のたくさんの通行人を
キラキラ輝くネオンを
ぼんやりと眺めていた
酔っているからか目の前を通り過ぎていく通行人はみんな顔がはっきりと見えなかったのに――
「わぁッ…イッター…」
俺の足に引っかかって躓いた女性の顔はハッキリと見えた――
「せ…先生?」
早瀬の一言で一瞬で高校時代にフラッシュバックする。
先生と呼ばれていた日々に・・・
「綾部…先生?」
「早瀬…」
早瀬の腕も声も微かに震えていた
こんな俺の姿を見て絶望しているのかもしれない
そう思うと早瀬の顔を見れなかった――
“フワッ…”
伸びた前髪の隙間から恐る恐る見ると
早瀬は俺の目の前に座っていた
学生服しか見たことがなかった早瀬は
今は私服でメイクもして
あの頃はまだ子供っぽさが残っていたけど
今じゃ俺の知らない大人の女性になっていた――
「ねぇ、先生…ッ」
今まで押さえていた感情が一気にあふれ出して
早瀬に抱きついた自分に驚いた
「早瀬、お前にはいつも格好悪いところばっかり見せているな…」
「先生…先生は私にとっては高校の、化学部の、あの頃の先生のままです。」
自分でさえ今の俺は嫌いなのに
早瀬が今の俺を好きなわけない――
早瀬は優しいからそう言っているだけだ
「引き止めてごめんな。早瀬、もう行って。」
「え!?先生はここにいるんですか?じゃあ、私ももう少しここにいます!」
お願いだから変に優しくしないでくれ
今の弱った俺は
優しいお前の心を利用してしまいそうだ――
「お前は俺に抱かれたいのか?」
今日の俺は理性が働かない
きっと早瀬を自分の欲望のままに抱いてしまう――
元がつくとはいえ教え子で
まだ学生の早瀬を
そんな風に抱きたくなかったのに――
「先生、抱いてください。」
冗談を言っていると思った
からかっているだけだと・・・
だけど早瀬の目はまっすぐ今の俺を見ている
「本気で言ってるのか?」
こんな俺を受け入れるというのか?
「…はい。私は本気です、先生。」
「…」
「先生、とにかくここを立ちましょう。体冷えましたよ。」
酒の抜けたのか一気に温かかった身体が冷えて10月の寒さを感じた。
早瀬も薄着をしているから寒そうにしている。
早瀬に自分のスーツの上着をかけると嬉しそうにそして少し照れたその表情は
高校の頃のままだった――
「きもち…わるッ…」
早瀬もお酒を飲んでいたのか急に戻し始める。
早瀬の小さな背中をさすって大丈夫だと何度も伝えると、何度もすいません、ごめんなさいという言葉が聞こえてきた。
「早瀬、大丈夫か?早瀬…」
落ち着いたかと思って声をかけたら、早瀬はいつのかにか寝てしまっていた。
「まだまだお子様だな…」
吐いてすっきりしてしたのだろう
寝てしまった早瀬をどこかで寝かしてあげたいが今どこに早瀬が住んでいるか知らないし
俺の家は遠い――
そんな時、目の前にパカパカと点滅するラブホテルの看板が目に入る。
“ギシッ…”
ラブホテルのベッドに早瀬を寝かしお風呂に入る。
“シャーー…”
シャワーを浴びながら今日の一日の出来事を振り返る
今日は母親の葬儀に
早瀬に再会できて――
『先生、抱いてください。』
まさか早瀬にそんな風に言われるなんて思ってもみなかった
お風呂から上がってワイシャツを洗面所で洗おうと蛇口をひねる。
“ジャーーー”
あの準備室でのキスに続き、今日このまま早瀬を抱けば後戻りはできない
「ん…水?」
「気付いたか?大丈夫か?」
「せんせ…エッッ!?」
早瀬は体を起こしながら辺りを見渡しここがラブホテルだとわかると顔を真っ赤にしてうつむいた。
冷蔵庫から飲み物を取って早瀬に渡してよく軋むベッドに自分も座る。
「あ、ありがとうございます。」
バスローブ姿の俺の姿を不思議そうな目で早瀬は見つめてくる。
「服洗ってて、それでついでにシャワーも浴びたんだ。」
「え!?もしかして私…吐きました?」
「うん。でも顔色よくなったな。」
躊躇いなく自分の手が早瀬の頬に手が伸びる。
ずっと早瀬に会いたかった
こうやって触れたかった――
三年かかったけど
その間に早瀬はすっかりと大人の女性になっていた
“ピクッ…”
ほんの少し触れた早瀬の体から
早瀬の緊張が痛いほど伝わってくる――
「早瀬…怖いなら、今すぐ俺の手を振り払って出て行って。タクシー呼ぶから。」
「私、ずっと先生にこうやってまた触れてもらいたかった。」
俺の手を握り締めて自分の気持ちを精一杯伝えてくる早瀬が可愛くて胸が熱くなる。
“ギシ…”
準備室でしたような触れるか触れないかのキスを早瀬がしてくる
こんな俺でも早瀬は受け入れてくれるなんて――
「んッ…」
早瀬の精一杯の気持ちにこたえるかのように
二度、三度と少しづつ二人の距離が縮まるキスを重ねる
早瀬の舌も俺の舌に絡めてきて
まだカラダは繋がっていないのに気持ちがよかった――
「…奈々ッ」
唇を離した瞬間、心の声が言葉になっていた
「…もう一回呼んで。」
いつも敬語で離す奈々が頬をピンクに染めながら懇願してくる。
そっと熱を持った頬を両手で包み込んで奈々の顔をじっくりと覗き込んだ。
「奈々…」
もう一度名前を呼ぶと奈々の大きな瞳から涙がこぼれはじめる
どうしてこんなにも愛しいんだろう
奈々が泣いている姿をみるとこっちまで胸が締め付けられて泣きそうになる
“ギュッ…”
突然奈々が抱きしめてきて驚いたけど
愛されるってフカフカで温かい――
前開きのワンピースのボタンを一つずつ外していく
奈々も緊張しているようだった
俺もボタンも一つ外すたびに“覚悟”や“責任”の重さが背中にのしかかってくる
だけど白くてきめ細かい肌は唇に吸い付いて離してくれない――
「先生、待って!」
お腹の辺りのボタンにさしかかったとき、奈々が突然声をかけてきた。
「…どうした?」
「…恥ずかしくてッ…」
両手で顔を隠してしまっているが耳が真っ赤だ
身体も熱があるかのように火照っている…
“ギシッ…”
大人になったかと思えば
少女のようなピュアなところがある奈々が可愛くて仕方ない――
ゆっくりと手を外して顔を覗き込むと確かにほっぺたはりんごのように赤かった
「んッ…」
さっきみたいな少しづつ舌を絡めながらのキスをすると
早瀬の腕の力が緩んでくる。
「じゃあさ…」
「え?」
「恥ずかしさがなくなるぐらい気持ちよくならないとね。」
「え…?」
もう奈々が自分の力で顔を隠せれなくなるぐらい――
すでにボタンを外して露になっている奈々の胸の谷間に沿って上から下に舌を動かして、そのままブラジャーを動かした。
胸の先端を口に含むと今まで聞いたことがない声を出して全身に力が入っている
自分でもいきなり大きな声を出してびっくりしたのか奈々と一瞬合った目をそらされた
“ギシッ…”
ショーツを脱がそうと太ももを持ち上げるとまだ小刻みに震えていた
もしかして・・・
「奈々、もしかして…」
「…初めてなんです。」
高校や大学時代なんて一番恋愛をしたい時期なはずなのに――
ずっと守ってきたのか…
「お前は本当に可愛いな。」
「先生…」
「だけど本当に俺でいいのか…?」
「…先生がいい。先生のあとをカラダに残したい…」
細い腕が俺の首を巻きつけてくる。
さっきまで小刻みに震えていたカラダはもう震えていなかった
小さな額、潤んだ目、赤い頬、乱れた吐息がでる唇をゆっくりと髪の毛を撫でながら見つめた
チュッとリップ音をたてながら下の唇を吸い、少しだけ舌を奈々の口の中にいれてみる。
「…ッ……」
奈々の腕に力が入って余計に奈々のほうへ体が引き寄せられる。
「奈々…」
「先生ッ…」
痛くならないようにじっくりと時間をかけたつもりだけど
やっぱり奈々は痛そうな表情をしていた
動きを止めて顔を覗き込みながら流れてくる涙を指で救った
「…痛いか?」
「先生に初めてを捧げた喜びの痛みだから…」
好きだとか
愛しているだとか
愛を確かめあう言葉はお互いには交わさなかったけど
だけどお互い同じ気持ちだと
奈々の表情や態度から伝わってきていた――
俺の気持ちもお前に伝わっていたのだろうか・・・?
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