第28話 止められないカラダ~先生ver.~
早瀬とは化学部でしか元々接点がなかったから
化学部に早瀬が来ない限り話すことはなく
結局卒業式まで迎えてしまった――
無事大学に合格した早瀬は卒業したら隣の県に行ってしまう
もう生徒と教師でいるのは今日で最後
最後なのに――
このままじゃ最後の接点も失ってしまう
生徒と教師だから踏みこめれない線もあるけど
生徒と教師だからこそつながっていたところも正直あった
もう明日からこの学校で早瀬を見かけることも
この化学室で来るか来ないかの早瀬を待つことも
廊下で聞こえる早瀬の声も聞くこともなくなる…
このまま早瀬への思いは消えていくのか――
早瀬も結局他の女子生徒と同じだったというわけだ
ただひとつ違うのは
俺が早瀬のことが気になる…
“カシャン…”
「しまった…」
あれだけ生徒には割るなといっていたビーカーを割ってしまう。
“コンコン…”
今日は化学部の生徒が挨拶に来ると言っていた。
部員の誰かがもうすでに来ていたのだろう
でもまさか――
「せ、先生?」
“キィ…”
ずっと来なかった早瀬が来るなんて思ってもいなかった――
「早瀬…」
「あ、音がして、それで…あ、えっと化学部で集まって…」
久しぶりの会話だからか
お互いギクシャクして
早瀬の頬がどんどん赤く染まっていく
「フッ…早瀬に避けられていると思ったけど変わってないのな。」
俺のことなんて忘れていると思っていた…
「え…避けてなんて…あ、ビーカーの片付け手伝います。」割れたビーカーの片付けを準備室で二人きり――
二人で過ごすのは今日で最後
早瀬の顔をこうやって近くで見るのも最後なのか…
早瀬の顔を見ていると視線に気づいたのか早瀬と目が合う――
「イタッ…」
「大丈夫か?破片で切ったか?」
しまった…
咄嗟に早瀬の手を握ってしまったから早瀬との距離が急に縮まってしまう
こんなにも近くで早瀬の顔を見たのは初めてだ――
密室で二人きり
今日卒業するとはいえまだ制服を着ている早瀬に手を出すわけにはいかない
だからこそ早瀬の潤んでいる大きな瞳でこんなにも近くで見られると理性が飛びそうになる――
「とりあえず水で流そう…早瀬?」
とりあえず早瀬から距離をとれば…
だけど早瀬は座ったまま動こうとしない
「先生…」
“パリッ…”
ビーカーの破片を踏んだ音と共に早瀬の唇が俺の唇に触れていた――
これはキスといえるのだろうか・・・
微かに震えている早瀬の手から
早瀬の気持ちが痛いほど伝わってくる
だけど下には割れたビーカーの破片があってこれ以上は近づけれない
これ以上踏み込んだら俺たちは怪我をする
そう、これはこれからの俺たちの関係――
「せんせーーーい!」
早瀬が生徒の声に反応して俺の手を振りほどき傷口を水に流す。
あのまま生徒達が来なかったら
俺たちはどうなっていたんだろう――
「あ、先生写真撮ろう!」
部長がカメラをセットし部員が並びだす。
「…ん?」
小指からピリっと電流みたいなのが流れる感覚があった。
左を見ると早瀬の小指が俺の小指に触れている。
早瀬も小指が触れたことに気づき、背中を丸めながら自分の小指を引っ込める。
その姿が愛おしくて――
“カシャッ…”
必ず…
早瀬を迎えに行く
そういう約束もこめて
早瀬の小指に自分の小指をあの時絡めたんだ――
次再会する時は笑顔で迎えられると
あの時は思っていた・・・
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