第5話 妖精と狼と仲直りと
「ちょっ。おばえまだ~。」
そしてなすがままにされるのであった。
しばらく経ったであろう。
一匹の狼は地面に座らされいた。鼻の上に立つ涎でどろどろのそれから説教を受けているのだ。
「モフ太郎あんた主人になんてことしてくれんのよ。」
「見てよこれ。服がベトベトじゃない。臭いし。あんたもちょっとは考えなさいよね。 」
そしてそのまま鼻から飛び降りるとまた水たまりへ飛び込むのだった。
「まったく。何度もベトベトにしてくれちゃって。こっちはたまったものじゃないわよ。」
「毎回こうやって着替える私の身にもなってよ。」
「ていうか服のスペアあといくだったっけ。このままじゃ私全裸よ。全裸。」
どこに隠しているのか服の数を数えていた。
そしてぷりぷり怒りながらも怒りは少しずつおさまっていった。
気を取り直すのよ私。これからどうするかを考えなくっちゃ。ここでモフ太郎という足をてにいれたのは大きいわ。これで移動はばっちりね。
そして飛び上がるとあらためて周囲を見回した。
目に入るのはとどこまでも続く広大な草原に自分の抜け出してきた森。
そして遠くには山々が見え、その中でなだらかで比較的近い山を見つけた。
「あの山にしよっと。上から見ればなにか見つかるでしょ。」
そういいながら狼の元へ歩みを進め、それに気が付いたモフ太郎がそばに寄ってくるのだった。
「いい。あの山よ。」
山の方を指差すと。
「あの山まで私を連れて行くの。」
「ウォン。」
理解できたようで。
「よし。しゅっぱ~つ。」
狼の背中に飛び乗ろうとしていた彼女を、口で咥えるとモフ太郎は走り出すのだった。
えーなにこれ。私今咥えられてる?咥えられてるよね。
「ちょ。違うでしょ。」
彼女はジタバタするとようやく口から抜け出すことに成功し。
「あんた私を骨かなんかと勘違いしてない。それにまたこんなにベトベトに。」
しかし狼は意味が分かっていないようで首を傾げていた。
「あんたほんといったいどういうつもりなのよ。私の服をさんざん駄目にして。」
「それともなにそんなに私のまっぱを見たいの!?ねえみたいの!?」
これには彼女の怒りも限界を迎えたらしく。
「もういい。一人で行く。」
そういって一人で歩き出すのだった。
しかし諦めずに何度言っても後を付いてくる狼に。
「いい迷惑なのよ。もう二度とついてくるんじゃないわよ。」
「クゥーン。」
すると諦めずに一緒に着いていこうとした狼も、寂しそうに頭を下げついには去っていくのだった。
妖精は立ち止まりそれを確認するとまた移動を始めるのだった。
ようやくどっかいったわね。清々した。
別の方向へ歩み出してしばらく経っただろうか。
厄介払いしたはずの彼女の足取りはだんだん重くなっていき、そんな彼女の胸のモヤモヤを表すかのように、先程までは雲一つない快晴だったそれも次第に雲に覆われ、ついには太陽を覆いかぶしてしまった。
嫌な気分だわ。あいつがいなくなって清々したはずなのに。私のせいなのかな。いや私は悪くないわ。全部あいつが悪いのよ。あいつがあんなことするから。
飛んで移動していた彼女の周りも暗くなり始めたころ、体にはポツポツと雨が当たりだすのだった。
雨宿りできそうな場所を探すものの、都合よくそんな場所があるはずもなく、彼女は仕方なく草花の生い茂る地面へ下り雨風をしのぐのだった。
雨脚もどんどんひどくなり、ついにはピカッと光り雷が落ちるようになっていった。
「バリバリーン。」
「キャッ。」
近くに落ちたそれはますます彼女の気分を暗くし、彼女はそんな中寂しさと寒さに必死で耐えているようだった。
「なんでこんなことになるのよ。」
「なんでなのよ。」
「一人は寂しいわよ。」
そう小さな声でつぶやくのだった。
一人で出発し今まで平気だった彼女も、モフ太郎と出会ったことで今まで抑えていた感情が溢れ出してしまったようで。
「旅になんて出るんじゃなかった。」
弱々しく発するそんな彼女の顔から一粒の涙が流れ落ちた。
しばらくたったのか、寒さに震えながらも疲れていた彼女は、暗い気持ちのまま静かに眠りにつくのであった。
雨もやみ、あたりが明るくなってきた頃。
彼女に変化が訪れていた。
あたたかい。
いつからだろうか。まず感じたのは温かさだった。
震えていたそれを優しく包み込んでいた。
「ドクンドクン。」
というすぐ近くから聞こえているその優しい音とともに。
次第に強く感じるようになったそれは彼女を眠りから覚ましていった。
目を覚ますとそこには自分が追いやったはずのモフ太郎という名の家来が、冷えた私の体を温めるよう丸まって覆いかぶさっていた。
「あんた。」
静かに眠っていたそれも目を覚ましたようでこちらに気付き、顔をよせやさしく鼻で小突き始めた。
「ふふっ。あんた。」
「ウォン。」
すると狼は彼女の前に、どこから取り出したのかなにかを組み合わせたそれを置いた。
「なにこれ。」
身を乗り出して見てみると、それは穴が開いた草や花を組み合わせたもの、ボロボロで出来の悪いなにかだった。
なにこれ・・・服?
「ふふっ。これって。」
なによこれ、持っただけで壊れそうじゃないの。サイズなんて全然合っていし。見た目どころか服とも呼べないわね。
だが彼女は地面に置かれたそれから一向に目を背けられないでいた。
狼を見上げた彼女は。
「ちょっとこんなに出来の悪い服今まで見たことがないわよ。」
「これを私に着ろっていうの。」
「私がこんなの着るわけがないでしょ。」
などと悪態をはきつつも触れただけで壊れそうなそれを、大事そうに両手で抱え懐へしまっていくのだった。
そして狼へ向かって。
「でもまぁ。しょうがないわね。あんたのこの貢物に免じて許してやろうじゃないの。」
「じゃあ。一緒に行くわよ。」
強がりながら、でもどこか嬉しそういって、一緒に山へ向かって歩き出すのだった。
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