第85話『夏の居場所』


ポナの季節・85

『夏の居場所』          




 SEN48は「エスイーエヌ・フォーエイト」と読む。


 SEはポナ・安祐美・由紀・奈菜の世田谷女学院を、Nはみなみの乃木坂学院のイニシャルを現し、48はそれぞれの学校の所番地の四丁目と八丁目からとっている。

 つまり符丁のようなもので、とりたてての意味や意気込みがあってのことではない。

 もともと世田谷女学院に住み着いていた幽霊の安祐美が、ポナたちを言いくるめて作ったユニットで、月に何度か路上ライブができればくらいのノリで始めた。

 

 この二か月でSEN48は変わった。


 東北の被災地や、あらかわ遊園でのライブを重ねることで音楽の力を知った、知ることでメンバーには力が付いた。技量はまだいま一歩だが、歌や演奏に心がこもるようになってきた。




「なっちゃんにはしばらくアシスタントをやってもらう」

 安祐美は夏を見送ると、最初にそう言った。

「いっしょにステージはダメなの?」

「そうよ、あたしたちは最初からステージに立ったじゃん」

「歌や楽器は夢の中で教えてあげればいいじゃない、あたしたちみたいに」

 ポナ以外の三人は、明日からでも夏といっしょにやろうという空気だ。

「みんなは知ってたでしょ、あたしが幽霊で、特殊な能力があること。だから夢の中で特訓やって、いきなり演奏や歌がうたえても不思議だとは思わない。でも、なっちゃんはどうだろ、朝起きていきなり歌えて演奏できたら……混乱するよ」

「なっちゃんにも安祐美が幽霊だって言っちゃえば?」

「これ以上正体知ってる人間増やしたくない。それにね、なんの努力もしないでSEN48の人気の中に入ってきたらまずいんじゃないかな……みんなは最初から歌って演奏はできたけども、お客さんとの交流は一からだったじゃない。そういうとこは他のアーティストと同じ苦労はしてきたと思うんだ」

「ふーん、そっかな……」


 三人が考え始めたとき、校門まで見送ってきたポナが帰ってきた。


「あたし思うんだけど、なっちゃんアシスタントから始めた方がいいんじゃないかな……」

 みんなが笑い出した。

「なによ、人が真剣に言ってるのに!」




 校門を出た夏は思わずスキップしてしまった。スキップなんて小学生の低学年以来だ。


「あ……ハハハ、やだ、あたしか」

 電柱一本分向こうのショウウインドウに素敵な女の子が写り、一瞬たじろいだのでおかしくなった。

「あたしも明日からメンバーなんだ、使いっぱしりのスタッフのそのまた見習いからだろうけど、SEN48は見習いだって可愛くなくっちゃね」

 

 何年かぶりで夏は自分の居場所ができた、夏の名残の蝉に「がんばれ!」と言ってみたりした。




☆ 主な登場人物


父      寺沢達孝(60歳)   定年間近の高校教師

母      寺沢豊子(50歳)   父の元教え子。五人の子どもを育てた、しっかり母さん

長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉

次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員、その後乃木坂の講師、現在行方不明

長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官

次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ

三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )

ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。


高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)

支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子

橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長

浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊

吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。

佐伯美智  父の演劇部の部長

蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒

谷口真奈美 ポナの実の母

平沢夏   未知数の中学二年生



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