第70話『T自動車CM撮影の開始』
ポナの季節・70
『T自動車CM撮影の開始』
撮影開始と言っても、もう三日前から始まっている。
土曜日にはSEN48全員の保護者の了解がとれ、日曜日の東北慰問ライブにはM企画のカメラが入った。
ライブで撮影されることには慣れていたので、ライブの途中で撮られていることを忘れるくらいだった。
月曜からはメンバーひとりひとりの撮影に入り、由紀と安祐美が終わり、今日はポナの番。
だからポナにとっては、今日が撮影初日のようなものだ。
「え、こんなに本格的なんですか!?」
朝早々とやってきたクルーを見て、ポナは小さく叫んでしまった。
監督の田中以下、カメラが三台、照明に音声、ADさんにタイムキーパーとメイクさんの総勢十二人。
「もう一度部屋から出てきてくれない?」
せっかく着替えた制服をパジャマに着直して自分の部屋から出てくる。正直パジャマ姿は恥ずかしいけど、勢いに呑まれてやってしまう。父の達孝と母の豊子がニヤニヤと笑って見ているのが癪に障る。
「新子ちゃん、顔洗ってもらえるかな」
「あ、あたし夏の朝はシャワーなんですけど」
言って後悔した、田中監督の目が光ったから。
上手いもんだと思った。
てっきり裸にならなきゃと思ったポナだが、シャワーシーンはパジャマの第一ボタンを外すところと、シャワーからお湯の出る瞬間を撮っただけ。
改めて制服に着替える。ここはリボンを付けるところだけを撮った。
「じゃ、次は家を出て駅に向かう。メイクさんお願い」
「え、メイクするんですか?」
「うん、ここからは顔が写るからね」
小さなショックだった。ここまでも顔が写ってると思って表情なんか気にしてポナなりに演技していた。
軽くメイクして玄関のドアを開けてびっくりした。
家の前はご近所のみなさんで一杯だ(^_^;)!
「やあ、新子ちゃんかわいい!」
「もうスターね!」
「あとでサインもらおう!」
一瞬でご町内のアイドルになってしまった。
家を出るだけで二回のリハーサルと本番はテイク3まで撮る。最後にモニターで出来を確認。
「えー、これがあたし!?」
感動している間もなく通学の撮影、カメラ一台と音声さんと照明さんが付く。
学校に着くと先回りしていた撮影隊が、演劇同好会の稽古場で待っていた。
「え……!」
ポナは、今日何度目かのビックリだった。稽古場には撮影隊と演劇同好会以外に八人の生徒がいた。
「急に新入部員が増えちゃった」
吉岡先生はニコニコしていたが、友子と奈菜は複雑な顔をしている。ポナは新入部員の顔を一瞥して言った。
「よかったじゃないですか、みなさんよろしく!」
ホッとした空気が新入部員たちに流れた。
新入部員がSEN48の人気にあやかっているのは丸わかり。
でも動機なんてどうでもいい、この中から半分でも付いて来てくれたら来年には同好会も演劇部に昇格できる。それよりポナは、自分がコワモテしていることに戸惑いがあったが顔には出さなかった。
とりあえずは、演劇同好会の夏公演を成功させること、そう思って稽古に集中した。
撮影は夜まで続いた。
お風呂に入る寸前までカメラが回っていたのは閉口だったけど、この撮影で、少し自分を客観的に見られるようになったかと納得。
――大変だったでしょ――と安祐美。
――お疲れさま――と由紀。
「ああ、安祐美も由紀もぉ、あらかじめ言ってくれたらよかったのに!」
大人びた納得は一瞬でどこかへ行ってしまった。
ポナと周辺の人たち
父 寺沢達孝(59歳) 定年間近の高校教師
母 寺沢豊子(49歳) 父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男 寺沢達幸(30歳) 海上自衛隊 一等海尉
次男 寺沢孝史(28歳) 元警察官、今は胡散臭い商社員、その後乃木坂の講師、現在行方不明。
長女 寺沢優奈(26歳) 横浜中央署の女性警官
次女 寺沢優里(19歳) 城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女 寺沢新子(15歳) 世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ 寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。
高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜 ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀 ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生 美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智 父の演劇部の部長
蟹江大輔 ポナを好きな修学院高校の生徒
谷口真奈美 ポナの実の母
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