第17話『チイニイの乃木坂講師初日』


ポナの季節・17

『チイニイの乃木坂講師初日』        



ポナとは:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名




 ポナの世田谷女学院は土日は休みだけど、乃木坂学院は土曜日でも授業がある。私学としては乃木坂の方が多数派だ。


 みなみはポナが乃木坂でなく世田谷を選んだのは、そのせいだと思っている。ポナは、ただチイネエのお下がりの制服が嫌だっただけなのだが、親友でも、そこのところは分かってもらえない。


――いいなあ、ポナは土曜が休みで。こちとら朝から大嫌いな現社の椋梨だぜ!――


 ポナは、このメールで起こされた。

「チェ、もうちょっと寝てようと思ったのに……」


――人生ヤナこと半分、残り半分の90%はど-でもいいこと。素敵なことって、その10%もないよ――


 と、教訓じみたことを返事して、再びベッドに。


「起立!」の掛け声で、アレっと、みなみは思った。

 朝礼に、担任の他に、もう一人知らない男の人がいたからだ。

「ええ、現社の椋梨先生が病気でしばらく休まれます。その間代わりに教えていただく寺沢先生です。自己紹介とかは、授業が始まってからということで、今日の連絡……」

 担任の事務的な連絡が終わると、とたんに一時間目開始の鐘が鳴った。


 また起立・礼のやり直し。


「初めまして。しばらく椋梨先生のピンチヒッターをやる寺沢です。よろしく」

 ポナと同じ苗字だったが、まさかポナのアニキだとは思わなかった。いかにも先生然としたダサさい見てくれに、これはハズレとクラスの大半が思った。



A   <――――>



B   >――――<


 孝史は、いきなり上の図を書いて、いきなり質問した。

「AとBの真ん中の直線、どっちが長い?」

 二択問題だ。Aが長い、Bが長い。ほとんどがBに手を挙げた。


 孝史は両方の<と>を消した。

 あれ?……とたんにAとBは同じ長さになった。まるでマジックだ。

「これ、錯視って言うんだ。<や>が付くことで真ん中の線の長さが変わって見える。そういうと……ほら、みんな分かった顔になるだろ」

「う~ん」

 みなみは、他のクラスメートといっしょに唸った。

「理解できるだろ。ところが小学校の低学年に見せると理解できない、最後まで首を捻る子がほとんどだ。しかし、君たちは分かった。これで小学生よりは賢いということが実証できた!」

 みんなから笑い声がもれた。

「世の中のことって、みんなこうなんだ。正しいことに<とか>が付くことで、実際とは違うものに見えたり思えたりする。例えば橋下徹という政治家がいる。この人にはカギカッコがついている。<か>は分からないし、君たちに言うべきでもない」

 孝史は、橋下徹の三枚の写真を貼った。タレント弁護士時代、知事時代、大阪都構想が大阪市民からNOを突き付けられた時。

「同じ人間とは思えないくらい違って見える。この人は、おそらくこのままでは終わらない。君たちが大人になったとき、また判断を迫られるだろう。オレの授業は、そういう世の中や人間に付いている<による錯視を見抜く力を付けることだ。じゃ、ボチボチがんばろうか」


 みなみを始め、クラスの者たちの孝史への認識は百八十度変わった。


――現社の新しい先生大当たり! 苗字はポナと同じ寺沢っていうんだよ!――


 ゲゲゲ…………


 メールを見たポナは言葉も無かった。




※ ポナの家族構成と主な知り合い



父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師

母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん

長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉

次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。

長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官

次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ

三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )

ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。


高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)

支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子

橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長候補




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