第16話『中間テスト最終日』 


ポナの季節・16

『中間テスト最終日』        



ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名




「終わったー!」


 定期考査と言うのは、出来不出来にかかわらず、終わった瞬間は嬉しいもんだ。


 生徒会選挙が来週早々だけど、こんな日になにをやっても、みんな上の空なので由紀はなんにもせずに、ポナと奈菜と一緒の帰り道、丹後屋の饅頭をホチクリ食べている。

「ね、例の若奥さん風のこと、なんか気づいた?」


 由紀は「分かった?」ではなく「気づいた?」と聞いた。なんか上から目線なので「な~んも」と不愛想にポナは答える。奈菜は相変わらずボンヤリと二人の話を聞いている。



「分かんない?」

「待って。うーん……パートの仕事?」

 ポナは苦し紛れに答えた。

「パートだったら、お昼間近のお医者にいったりできないでしょ」

「……そりゃそうね」

 奈菜は、あんまり気のない返事をした。意識のほとんどが饅頭を味わうことに動員されている。


「セックスのことに決まってんじゃない」


 グフッ!


 ポナは、危うくむせ返るところだった。

「あれって、体密着させるじゃん。きっとひどい風邪かなんかで、旦那に伝染しちゃいけないから……あら、なにむせ返ってんのよ。ポナって究極のガキンチョだね」

 奈菜は――あ、そうか――と、軽い顔をしている。すっかりお嬢ちゃんに戻った気でいたが、家出してガールズバーでバイトしていただけのことはある。


 昨日と同じようにポチを連れて、薮医院の前を通る。


 例の若奥さん風が、機嫌よく日傘を開き、クルクル回しながら帰っていくところだった。

「先生、もうあの若奥さん良くなったの?」

 休憩のために表に出てきた藪先生に聞いてみた。

「ああ、やっとな。なんだポナ、顔が赤いぞ、風邪のぶりかえしか?」

「ううん、そうじゃない」

「ははーん、ポナもやっと意味が分かったか」

「あ、いや、なにもそんな……きれいな人だから元気になって良かったなって思っただけ!」

「女になって、まだ一年だからな……喜びもひとしおなんだろう」

「……え、何が一年だって?」

「しまった、うかつに喋っちまった。でも知ってるだろ、こないだまでテレビによく出てた夏菜あい。真剣に若奥さんやろうとがんばってるんだ」


「夏菜あい……!?」


「おっと、内緒な」


「う、うん」


 由紀の予想は当たっていたが、大きなところでハズレていた。まあ、夏菜あいの変わりようは見ただけでは分からない。

「それだけ人生に真剣なんだ。そっとしといてやってくれ……」

「先生、患者さんがお待ちです!」


 看護師さんに叱られて、藪先生は、お尻を掻きながら医院の中に戻って行った。


「世の中何があるか分かんないよね……」

 ボール遊びを二十回こなしたポチに独り言を言った。ポチが口を聞けたら「そんなの当り前」と言っただろう。


 家に帰ると、もう一つビックリすることが起きていた。


「ポナ、オレ乃木坂の常勤講師に決まったぜ!」



 チイニイの孝史が嬉しそうに言った。



※ ポナの家族構成と主な知り合い


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師

母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん

長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉

次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。

長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官

次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ

三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )

ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。


高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)

支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子

橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長候補




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