第14話『今日から中間テスト』
ポナの季節・14
『今日から中間テスト』
ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名
今日から中間テスト。
だけどポナはガツガツ勉強なんかしない。
学校の成績なんか適当でいい。ポナの人生訓である。
中学のとき、お父さんと同じM大出の先生と東大出の先生がいた。東大が偉いのは世間の常識。M大が昔から落ちこぼれ大学であることも世間の常識。
でも、お父さんもM大出の先生も普通以上の先生になっている。東大出の先生の授業はつまらなくて、ほとんどの生徒はろくに授業を聞いていなかった。この東大出の先生は、ポナの卒業と同時に都の教育委員会に「指導主事」という肩書で出て行った。
「ああ、そういうのは現場で使い物にならないやつらの吹き溜まりさ」
お父さんは、事もなげにそう言った。
ポナの兄姉もそうだ。がっついた勉強は、大ニイが防大を受けると決心した半年ぐらいのもので、あとは、みんな、その時の自分の身丈に合ったところに進学なり就職している。ただチイニイ一人が警視庁に入りながら数年で辞めて怪しげな商社に入ったのが例外。でも、本人はちっとも落ちこぼれたとは思っていないようだから、それはそれでいいと思う。
だから、ポナはテスト期間中で早く帰ったからと言って、いきなり勉強なんかしない。
家に帰って十一時前。丹後屋の半殺し饅頭を一個だけ、奈菜といっしょに買って食べたから、昼にはちょっと早い。
で、ポチを連れてちょっと離れた大川の河川敷まで散歩にいく。
途中、こないだ風邪をひいた時に世話になった薮医院の前を通る。
ちょうど診察を終えたばかりの若い奥さん風が元気なく出てきた。まあ、お医者さんから出てくるのは病人と決まっているから、そうそう元気一杯で出てくる人はいない。
藪先生が、追いかけるようにして出てきた。
「奥さん、もうちょっとの辛抱だ。な、いいね。心配なら毎日でも診てあげるから。ね」
西田敏行に似た先生の、いつものお節介だ。ポナのときも「三社のお祭りは、来年もあるんだからな」と念を押された。
「お、ポナじゃねえか。ポチと散歩か?」
「うん、大川まで」
「そうか、無理するんじゃねえぞ」
「もう、風邪は完璧に直っているから」
「違う、ポチの方だ。ポナと同い年だから、人間で言やあ後期高齢者だ。ほどほどにな」
「後期高齢者だって」
ポチは、きょとんとした顔でポナを見上げた。
大川の河川敷に下りると、ポチとボールで遊んだ。リードを外すのは条例違反だから、リードを持った手の方を放す(文句ある?)。ボールを高く投げてやると、プロ野球のキャッチャーのようにジャンプして口でキャッチする。
次は遠くに投げてやる。ポチは懸命に追いかけて、口で咥えて戻ってくる。子犬のころからポチが一番好きな遊びだ。
でも。十五回ほどやると、咥えたボールを放して、リードの先を咥えた。
「なんだ、もう飽きた?」
藪先生の「無理すんな」という言葉が蘇ってくる。
「そうか……」
ポチも歳なんだという言葉は飲み込んだ。
「ねえ、お母さん……」
昼ご飯にチャーハン作って食べながら、藪先生の言葉をそのまま話した。
「先生のおっしゃる通りだろうね……」
ポチの事は真っ正直に答えてくれたが、若い奥さんが「もうちょっとの辛抱だ」と言われたことには、曖昧に笑っただけだった。
※ ポナの家族構成と主な知り合い
父 寺沢達孝(59歳) 定年間近の高校教師
母 寺沢豊子(49歳) 父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男 寺沢達幸(30歳) 海上自衛隊 一等海尉
次男 寺沢孝史(28歳) 元警察官、今は胡散臭い商社員
長女 寺沢優奈(26歳) 横浜中央署の女性警官
次女 寺沢優里(19歳) 城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女 寺沢新子(15歳) 世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ 寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。
高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜 ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀 ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長候補
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