第13話『親殺しと半殺し』


ポナの季節・13

『親殺しと半殺し』   



 ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名




「ねえ、親を殺したいって思ったことある?」


 由紀の選挙ポスターを貼りながら、奈菜が物騒なことを聞いてきた。ポナはビックリして画びょうを落としてしまった。



「ねえ、思ったことある?」

「あのね、ものを聞くのにはタイミングと聞き方ってのがあるよ……画びょう、どっかいっちゃったじゃん」

「ごめん、でもさ……」

 奈菜は、口ほどには思っていない「でもさ……」で、まだ自分の世界の中に潜って手が止まっている。

「……たぶん、昨日の横浜の母親殺人事件のことを気にしてんだろうけどさ……」

「うん、犯人の高校生って、同じ高一じゃん。なんか身につまされんのよね」

「それよりも画びょうがね……ほっとくと、怪我人が出るかも……ちょっと奈菜!」

「え、ああ、画びょう……ポナのスカートにひっかかってる」

「え、どこ?」

「お尻のとこ……」

「分かってるんなら、早く言ってよね。このまま座ったら刺さるでしょうが」

「だから、親をね……」


 どうも話のピントが合わない。


「あたしなんか、五人兄姉のミソッカスでしょ。考えたこともないよ。次の掲示板行くよ」

「うん……」

「奈菜、あんたこないだの五月病で、さんざん迷惑かけたとこでしょ。そんなこと聞ける立場?」

「なんだけどね、あれも、普段からイイコちゃんぶって、本当の自分を出さなかった結果だと思うのよ。あたし、ポナみたく自分で、この学校決めたわけじゃないもんね」

「だったら、さっさと学校辞めて、来年の春に別の学校受け直すべきね。画びょうちょうだい」


 貼り終わった最後のポスターを見て、書いてあることに初めて気づいた。


――主体性のある生徒! 指導性のある学校!――なんだか矛盾したスローガンだ。


「浅田真央のインタビューなんか見ても思ったのよ。あんな風に自信持って自分のことが決められる女にならなきゃって」



 どうも、奈菜はマスコミとか、その場の雰囲気に流されやすい性質のようだ。



 ポナと友だちでいられるのは、ポナが適度にああしろこうしろと言ってくれることと関係が有りそうだ。ポナは、他の兄姉と歳が離れているせいもあって、逆に何事も自分が決めなければ放っておかれる立場にある。だから中学までは我慢したが、高校は自分の意志で世田谷女学院を選んだ。奈菜を見て居るとイライラすることも多いが、存外好き放題をぶつけられる妹的な存在として、かけがえのない友だちなのかもしれない。むろん本人は自覚していないが。


「あ、新しい饅頭屋さんだ!」


 登校するときには、まだ看板が出ていなかったが「丹後屋」という看板が、お饅頭や大学芋の匂いと混ざって、食欲旺盛なポナの胃袋を刺激する。

「ほう……なかなか本格的な饅頭屋さんだ」

 ガラス張りの厨房の中では、いかにもベテランと言う感じのオバサンが、小気味よく饅頭を作っていた。


 親子セットと言うのがあって、粒あんと漉しあんの二つの組み合わせ。

「開店記念に二割引きだってさ。うん、これは、なかなかいいコミニケーションツ-ルだ。買っていくか!」

 列も並び始めの五六人だったので、ポナと奈菜は列に加わり「親子セット二つ」というと「開店祝いのサービス!」ということで、別に半殺し(粒あんとこしあんの中間)を一つくれた。これが意外にいけそう。


 半分に割った半殺しをパクつきながら駅に向かう二人だった。




※ ポナの家族構成と主な知り合い



父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師

母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん

長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉

次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員

長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官

次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ

三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )

ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。


高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)

支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子

橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長候補

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