夜が明けるまで、私と

武田修一

夜はそこにある

「夜が明けるまで、私と」


 踊ってよ、と彼女は言う。差しのばされた手を取ろうとするけれど、彼女は人工知能であり、現実感のあるものではなかったので、伸ばした手は当然のごとくディスプレイに当たった。彼女は悲しそうな顔で笑う、その表情もよくできている。まるで感情が存在していて、そういう人間がいるかのようだというのに。

 彼女は学習を繰り返して、知識を人よりも多く摂取して、人のかたちを得て、人の感情を摂取して、そうして今の彼女になった。だけど、いくら技術が進歩しようとも、彼女はディスプレイの向こうからこちらに来られない。機械人形オートマタに人工知能を載せれば、彼女はこちらに来られるというのに、誰もそれをしなかった。それをすれば、人間と機械人形オートマタの区別がつかなくなるから、というのが一番の理由だろう。機械は機械だというのに。区別がつかないからなんだというのだろう。妄想と現実がごっちゃになるというのだろうか。妄想は妄想であり、現実はどうしようもなく現実だというのに。


 ――――誰もしないのなら、僕がやる。



 そう決意して、一年が経っていた。未だに彼女はディスプレイの向こう側にいる。


「ねえ、踊って」


 彼女は悲しそうに笑って、僕に訴えかけてくるのだ。

 そばには、彼女の外側となる機械人形オートマタが置いてある。ディスプレイに映る彼女と同じように、銀糸の髪に青い瞳、優雅にダンスを踊れるように細く白い手足をつけて、薄いけれど肉付きのよい胸をのせて、清純そうな白いワンピースを着せている。ディスプレイの彼女とは違い、機械人形オートマタには一切の感情がなく、知識もなく、プログラムでさえ搭載されていない、本当にただの外側であり、精神のない人形である。これに、彼女を載せることができたなら、僕たちは現実に存在することができるだろう。

 そうすれば、僕は彼女と踊ることができる。ああ、その日が待ち遠しい。


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