ウタタネ
@k_aoki
第1話
七条を大阪方面へ出発して少し経つと線路は地上に出る。今は夜であるから地上に出たところでさして景色は変わらない。強いて変化を挙げれば所々に踏切が有るくらいか。手前数十メートルのレールを鈍く輝かせながら特急は走る。東福寺、鳥羽街道……、と暗闇に浮かぶ駅を無感情に通過しつつ、丹波橋に着いた。それから直ぐに中書島にも止まる。ここからが長い。次の停車駅である樟葉までは十数分掛かる。疲れ切った私は足元から伝わる規則的な振動に耐えられず眠りに落ちてしまった。
目を覚ましたのは京橋から発車しようとする丁度その時だった。枚方はとっくに過ぎている。よく寝たものだ。閉まりかけるドアに駆け出すこともせず私は座席に深く座り直した。再び線路は地下に潜る。次の天満橋までは直ぐだ。私はここで折り返すべきであったが、体は座席に沈んだままで動かない。
結局、淀屋橋で降りた。というよりそうする他なかった。車掌か駅員か誰かは分からないが、制服を着た男に降りるよう言われたのだ。あぁ、すみませんと我ながら間抜けな声が出た。
疲れ切った顔をした人々を吐き出す電車を何本か見送って、私は鈍行に乗った。窓に映る私の顔は幽霊のようであった。
ちんたらちんたらと走ってまた地上に出た。京阪自慢の複々線もこの鈍行にかかればその爽快感は消え失せる。やっとのことで最寄駅についたが、その時には既にバスは無かった。
来るはずの無いバスを待ち続けるように、私は停留所のベンチで寝てしまった。
ウタタネ @k_aoki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます