13.囮
俺の大事なお宝で盗賊を釣る、という案が正式に決まり、それからは骨格に肉付けするように怒涛のスピードで盗賊捕縛作戦の内容が固まっていった。
まず、俺たちの中で一番弱そうなリゼが囮になってお宝の入った小袋を持ち、盗賊に油断させて近寄らせるというものだ。
なんせ今回のターゲットはかなり警戒心が強いらしく、屈強な男相手だとそもそも襲ってこないそうだ。
なのでラルフは論外として、俺も同じ男なのでパーティーの女性陣、すなわちリゼ、ルリア、レニーの中からお子様然としたリゼが選ばれた格好だ。
「どきどき……」
台詞通り、落ち着かない風のリゼが荷物を手にする。盗賊が現れる夕刻も近付いてきたし、俺のお宝を手にしたことでかなり緊張も高まってそうだ。
だが心配ない。彼女が襲われたとわかれば、近くで見守っている俺たちがすぐに飛び出して――って……リゼがこっそり小袋の中身を見ようとしていたことに気付き、俺はすぐさま怒りの形相で詰め寄った。
「リゼエェ……」
「ひゃうっ、ディル様、ごめんなしゃい。どうしても気になっちゃって……」
「じゃあ仕方ない、ルリア、頼む」
「はーい、承知いたしましたっ」
「……」
「あの……」
「……ん?」
「その……ディル様、申し訳ありません。わたくしのことをそんなに見て下さるのは嬉しいのですけど、少々照れてしまうのですが……」
「あ、ああ、そうか」
ルリアがやたらとそわそわしてて落ち着かない様子。
これはもう、俺が余所見でもしたらその隙に荷物の中を覗く気満々だな。というわけで少しの間視線を剥がしたあと、すぐ戻してやったら案の定、小袋のほうにルリアの視線が釘付けになっていた。しかもちょっとニヤけてたぞ……。
「はい、没収」
「うぅ……」
「次、レニー」
「任せてー」
俺はレニーに小袋を渡した。この子は天然っていうか何考えてるのかよくわからないってことが結構あって、覗いちゃいけないっていうのをすぐ忘れて覗こうとするんじゃないかっていう怖さはあるが、女性陣はもう彼女しかいないわけだしこの際しょうがない。
「レニー、わかってるな、絶対覗くんじゃないぞ?」
「う、うんっ」
「……」
俺が詰め寄って念を入れると若干動揺していた様子だったので少々罪悪感を覚えたが、ちゃんと脅しておかないとな。こういうとき、凄みが一層増すから悪人として見られてて本当によかったと思う。
「ディル様のお宝、見たらダメ、絶対に見たらダメ……」
「そうそう」
レニーが自分に言い聞かせてる様子。結構物分かりがいいタイプらしい。
「ダメダメ、見たら、見たらダメ……」
「……」
ちょっとくどいが、仕方ないか。
「ダ……ダメなんだから……!」
「おい!」
「あぅ……」
彼女が小袋に顔を近付けてたので没収することにした。これ多分、欲望に一番弱いタイプだ。
「で、ではあっしが!」
「いや、ラルフがやるくらいなら俺がやる!」
「うぐ……絶対開けないのに……」
「それはともかく、ラルフはある意味盗賊みたいな顔だからな」
「酷いっす、傷つくっす。ディルの旦那の鬼、悪魔、魔王っ!」
「おいおい、それは俺にとっちゃ誉め言葉だぞ?」
「そ、そうでありやした!」
「「「プププッ……」」」
リゼたちが笑う中、照れたような顔を見せるラルフ。彼は見た目と反して中身は乙女みたいなやつなんだが、ガタイがいい上に強面ってこともあってさすがに盗賊も近寄らないだろうしな。
俺の場合は男とはいえ痩せ気味だし、猫背になっていかにも自信がなさそうに歩けば大丈夫だろう。それに、よく考えたらこの宝は俺が持っているのが一番いい。なんせこの宝の値打ちは俺にしかわからないともいえるものだから、盗賊にもその大事そうな様子がひしひしと伝わるかもしれない。
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