12.宝
夕方から夜にかけて、都の北口周辺に盗賊がよく出現するってことで、俺たちはそれまで念入りに準備を進めることにした。
なんせ相手は都で神出鬼没の怪盗で、中々捕まらないことでも有名みたいだし、一度捕獲することに失敗してしまうと、ギルドが定める一週間という最大期限内に捕まえるのは至難の業だろうからな。
しかも盗賊っていうジョブは、ほんの数秒ほどらしいが姿が見えなくなるクローキングとかいう技を使ってくるらしいから厄介なことこの上ない。というわけで作戦会議をギルド内でやってるわけだが、早くもラルフを筆頭に頭を抱えてしまってる様子だった。
「うぅ、ディルの旦那、何か作戦をお願いしやす。あっしにはどーもこういうの、ちんぷんかんぷんでして……」
「ラルフは考えちゃダメなタイプだよぉ」
「ラルフさんはわたくしたち側の人間ですしねえ」
「言えてるーっ」
「あ、あっしらは確かにそうっすが、それを根底から覆せるお方がいるから大丈夫っすよ!」
「「「確かに……」」」
「……」
なるほど、ラルフたちは根っからの依存型の集まりなんだろうな。まあそのおかげで俺みたいな一風変わった召喚術師でもパーティーにありつけたんだが。そういうわけで俺が考えてやることにした。
うーん、どんな方法がいいだろうか? みんな真剣に見つめてくるもんだから凄いプレッシャーだな――って、そうだ、その手があったか……。要は盗賊から注目されるような宝物を持てばいいんだ。しかし相手も盗みのプロ。最も大事なものを持っておかないといけないだろう。
「俺にいい考えがある……」
「「「「おおっ!」」」」
早速この名案を実行に移すべく、俺は道具屋で上等な小袋を一つ購入すると、その中に素早くあるものを仕舞い込んだ。
「ディルの旦那、今何を入れたんで……?」
「見たーい」
「なんですの……?」
「なんなのー?」
「ラルフ、リゼ、ルリア、レニー、これはな……例の盗賊を釣るためのお宝だ」
「「「「ええっ……!?」」」」
「案ずるな。奪われても奪い返せばいいだけ。俺の無慈悲な召喚術でな……」
いかにも悪党らしい名台詞が決まった……と思ったら、みんな俺が持つ小袋のほうに注目している様子。
「中身、見たいのか?」
「見たい見たーいっ、リゼ今すぐ見たいよぉっ」
リゼが足に抱き付いておねだりしてきた。体も小さいし本当にお子様みたいだな。
「わたくしも見たいのです……」
今度はルリアが近付いてきたかと思うと上目遣いで見上げてきた。可愛いがちとあざとい……。
「あたしも見せてー」
レニーが後ろから抱き付いてくる。おいおい、胸が当たってるんだが?
「ディルの旦那! あっしも見てえっすー!」
「……」
ラルフの両手を合わせたおねだりポーズのおまけつきだ。
「そんなに見たいか? リゼ、ルリア、レニー、ラルフ」
「「「「イエスッ!」」」」
「だが、ダメだ。なんせこの中には想像を絶するお宝が入ってるからな。ほかの盗賊にまで目をつけられてしまうリスクもある……」
「「「「ごくりっ……」」」」
みんな固唾を呑んでるな。もちろん中身を見せるつもりはない。これを見られてしまうととんでもないことになってしまうわけだからな。
「ディルの旦那のことっすから、伝説のアイテムくらい入っててもおかしくねえっすね……」
「わぁっ、見たいよう……」
「わたくしとしては、多分王族から盗んだ秘宝の一つと睨んでいますわ……」
「ルリアいい線いってそうー。だとすると、あたしが予想するその中身はー、見せたら誰もが従ってしまうっていう聖杯ってところかなー……?」
「「「「おおっ!」」」」
「……」
みんな勝手に盛り上がってるが、中にはある意味聖杯よりも大事なものが入ってるから、これだけは絶対に見せるわけにはいかない。何がなんでも……。
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