6.外道


「さあ、お前ら、俺についてこい!」


「へい!」


「うんっ!」


「わかりましたわ……!」


「はーい!」


 前方からはまぶしい朝陽、後ろからは俺の新たな味方――戦士ラルフ、魔法使いリゼ、僧侶ルリア、剣士レニー――の元気な声がぶつかってきて気分は上々だ。宿舎の洞窟を出て、俺たちが向かった場所は冒険者ギルドだ。


 俺は全員A級の勇者パーティーにいたものの、そこから追放されたことで底辺のF級冒険者に逆戻りしてしまったため、最初からランクを上げなきゃいけない。それは前リーダーから見捨てられたラルフたちも同じだってことで、新たに俺がリーダーとなってみんなを引っ張ることにしたんだ。


 ギルドへ到着するなり、早速俺たちは依頼を探し始める。もちろんF級しか選べないのでそこを重点的に。何々……どこぞの屋敷から荷物を駐屯地まで運搬してほしい、遠出する貴族の娘の用心棒として付き添ってほしい、近くの鉱山で魔鉱石を発掘してきてほしい……。


「うーむ……」


 報酬もいいし悪くない依頼が幾つもあるが、どれもこれも悪党として選ぶには相応しくない。そういう意味じゃ、別のプレッシャーが押し寄せてくるな……。


「旦那が何を選ぶのか、楽しみにしておりやす!」


「なんだか怖そうだよぉ」


「きっと、常人では考えられないものですわ……」


「だよねー」


「……」


 ラルフ、リゼ、ルリア、レニーの期待の眼差しがさらに重く肩にのしかかってくる。ん、なんか一枚の貼り紙の前に人だかりができてて騒々しいな。


「なんかやべー依頼だぜ」


「これ、絶対受けないほうがいいだろ」


「明後日にはAまでいくんじゃね?」


 Aというのはおそらく依頼のランクのことだろう。今一番熱い依頼で、誰も攻略できそうにないからこんな発言が飛び出すんだ。一体どんな依頼なんだろう、俺も見てみるか。


 依頼主:リャック


 取引場所と時間:ギルド入口 午前10時半


 依頼ランク:F


 報酬:金貨1枚 銀貨3枚 銅貨5枚


 依頼内容:都から西北西3キロ先、メイヤ村中央通りにある自分の武具屋『ヘルファイヤ』で立てこもり事件が発生いたしました。店先で酔っ払った男が客を人質に取って暴れています。どうかお助けを! 期限は人質の体力を考え、本日より三日までとさせていただきます。


 ※報酬は人質が無事だった場合のみ発生しますのでご了承ください。


 なるほど。冒険者になりたてでも受けられるFランクにしては破格の報酬だが、その分受ける人が少ないってことを見越したものだろうな。


 確かに迂闊に飛び込めば人質を死なせてしまう可能性もあるし、下手すりゃ報酬を貰えないどころか評判すら下がってしまう、リスクがバカでかくて手を出し辛い依頼だ。それでも、成功すればかなり美味しいといえるだろう。俺はもう評判なんて地に落ちてるようなものだし、そもそも悪党だから怖いもの知らずだしいけそうだな。


「よし、これにするか、お前たち」


「「「「えっ……?」」」」


「ん?」


 ラルフたちがみんな不思議そうにしたので俺は一瞬わけがわからなかったが、まもなくはっとなった。そうだ、俺は悪党っていう設定だったんだ。なのにこんな依頼を受けるというのはある意味矛盾してるのかもしれない。


 そうだな……言ってしまったものはもうしょうがない。悪人がこの依頼を受けるもっともらしい理由を考えるんだ……んー、ああでもないこうでもない……よし、あれでいこう。


「――俺はなあぁ……許せねえんだよ……」


 額に青筋を浮かせるイメージで、俺は宙を睨みつけた。


「「「「許せない?」」」」


「ああ……大した力もねえくせに俺より目立とうとする悪党がよ……」


「な、なるほど。よくよく考えてみりゃ、これって悪党同士の抗争みたいなもんっすよね。さすがディルの旦那!」


「ディル様はぁ、大悪人だもんねっ」


「うふふ、ディル様ったら、相手が格下といえど、同じ悪人を見て負けず嫌いの虫が働いたのですね……」


「ディル様、小悪党を蹴散らしてやってー!」


「ああ、任せろ、お前ら。こんなやつ、人質ごとぶっ飛ばしちまうぜ……」


「「「「ごくりっ……」」」」


 不敵な笑みとともに吐いた俺の台詞に対し、関係ないやつらも含めてみんな青い顔で黙り込んだ。これならしばらく舐められずに済みそうだな……。

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