5.罪悪感
「――あ……」
目覚めると、そこは朝陽が射し込む洞窟の中だった。正直、上手くいきすぎてたから夢なんじゃないかと思う気持ちもあったが、そうじゃなかったんだな。
「くー、くー……」
「……」
なんか可愛い寝息がすぐ近くから聞こえると思ったら、俺の隣でリゼが心地よさそうに寝ていた。おいおい、いくら幼女みたいだからって無防備すぎるな。まあだからって起こすのも野暮だしそっとしておいてやるか……。
「な、なんてことを……!」
「え……」
ラルフが入ってきたと思ったら、怒りの形相で迫ってきた。あー、さすがにまずいか、この状況は。仲間の女の子に俺が手を出したようにしか見えないだろうしな。言い訳しても、悪人だと言い切ってる以上おそらく信じてはもらえまい。
折角仲間になったのに喧嘩別れになるのは寂しいし、ほかのメンバーに対する罪悪感もあるが、一方的にやられるのも癪なので召喚術で蹴散らして逃げるとしよう……。
「リゼ、お前というやつはー!」
「ふわっ!?」
「……」
ラルフが怒鳴ったのは、俺じゃなくてリゼのほうだった。
「ここは今日からディルの旦那のためのベッドだってあれほど言ったっすよ!」
「うぅ……ごめんなしゃい、ディル様。ちょっとだけ隣で寝ようと思ったら、こんなことにぃ……」
「え、いや、別にかまわな――」
そこで俺ははっとなる。そうだ、自分は悪人っていう設定だったな。それは守らねば。
「「――別にかまわない……?」」
「ん、ああ、今日は機嫌がいいから別にかまわねえってことだよ、いちいち言わせんな」
「「おおっ!」」
ラルフとリゼが顔を見合わせて喜んでる。悪党でもないのに悪党を演じるというのはどうも違和感があるが、また舐められて追放されないためにも慣れておかないとな。
「次からは気をつけろよ!」
「へい!」
「うんっ!」
二人ともひざまずいてきた。悪い大臣にでもなったかのような、このなんともいえない感覚。ぞわぞわするな……。
「あら、ディル様、もう起きておられたのですねっ」
「ディル様、おはよー!」
お、ルリアとレニーもやってきた。俺は悪者らしく、獲物が来たかのように目を鋭く尖らせてみせる。
「今回はいきなりだったから驚いたが、最初からベッドを使うなら問題ない」
「「「「ええっ……?」」」」
ベッドがあるのはここだけみたいだし、俺だけ使うのもな。
「じゃあ、リゼ最初から使うー!」
「わ、わたくしも使わせていただきますわ……」
「あ、あたしもー!」
「い、いいんですかい? ディルの旦那が一人で使ったらいいのに……」
「いや、問題ない。なんせ全員、俺の女どもだからな。わははっ!」
「「「「……」」」」
うわ、俺の台詞を聞いてみんな唖然としてる。さすがに、いくら悪人とはいえまずかったか? 俺様然としすぎてドン引きされちゃったかもな……。
「いやー、よかったっす」
「え……?」
俺はラルフの言葉に耳を疑った。
「な、何がよかったんだ?」
「ディルの旦那、前のリーダーと違って潔癖症じゃないみたいで……」
「潔癖症?」
「へい、凄く横暴な人で、その上潔癖症でして、女の子が近付くのを極端に嫌がっておりやして……」
「な、なるほど……って!」
「「「うふふっ……」」」
気が付くと、俺のいるベッドにリゼ、ルリア、レニーが笑顔で座っていた。あまりのことに飛び上がりそうになるが、ここでそれをやってしまうと舐められる。今日から俺は変わるんだ、悪人なんだ……。
「おいおい、お前ら、それだけか?」
「ふぇえ?」
「あの、ディル様? それだけ、とはなんなのでしょう……?」
「なんなのー?」
「ご主人様には挨拶のキスが必要だろう!」
「「「あっ……!」」」
フッフッフ、これはさすがに横暴すぎて向こうがビビるだろう。新人がいきなりベッドの上で味方の少女たちにキスを強要、だからな。悪人らしさがこれでもかと出ているはずだ。
「ちゅーっ!」
「ベ、ベーゼを……」
「キス、するね……」
「うっ……?」
俺の唇が彼女たちに立て続けに奪われることになった。おいおい、本当にやるのかよ。さすがに罪悪感半端なかったぞ。いくらなんでも従順すぎるだろ、こいつら……。
「それでは、あっしも……」
「い、いやっ、ラルフ、お前はしなくていいっ!」
「へ、へい!」
あー、危なかった。気付いたときにはラルフの髭面が目の前にあって、俺はしばらく冷や汗が止まらなかった……。
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